番組に残る課題
組織への不信感の声は、確かに番組に残った課題だろう。「元社員個人の問題」という印象付けではないかとの指摘は、鋭いところを突いている。若泉元理事も「旧ジャニーズ事務所は重要なパートナー」と認めていた通り、「幅広い世代層を獲得するため」にNHKとジャニーズの組織的な癒着はあった。
ならば取材はもっと広範に行われるべきだった。一般企業の不祥事や犯罪の追及をする際、NHKは“顔ぼかし”“音声変更”での証言をよく行う。ドラマや芸能番組の現役あるいはOBの証言を取り、ジャニーズ問題がどんな位置づけだったのか、なぜ誰も彼を止められなかったのか、NHK内の事情にもっと迫るべきだっただろう。
そこがゼロなために組織への不信が高まる。「企画自体が高度な経営判断」「禊ありき」と勘繰られるのは十分予想できたはずだ。実はNスぺは、放送前に多くの管理職が試写に立ち会う。かつてはNスぺ事務局の数人がOKなら放送にこぎ着けていた。ところが何時の間にか各部署のトップたちが何人も集まり、いろんな懸念をぶつけ結果として番組は角のとれたつまらないものになりがちだった。
ところが今回はNHKの問題だけに状況が異なる。組織防衛を優先すれば、そんな意図は容易に見抜かれてしまう。結果として「禊ありき」「方針転換の免罪符」と受け取られ、返って多くの批判に晒されるのは十分予想できたはずだ。
これはNスペのあり方の致命的な欠陥ではないだろうか。あるいは、こうした展開を想定した上で「この程度にしておこう」としたのなら、ドキュメンタリーを利用した組織宣伝という悪質な番組となってしまう。