9月24日に90歳の誕生日を迎えた作家・筒井康隆氏。これまで「不良老人」として人生論を披露してきた筒井氏に卒寿の心境を尋ねるインタビューを申し込むと、予想外の返答があった。今春、神戸市の自宅で転倒したことをきっかけに、夫婦で老人ホームに入居したというのだ。現在の施設暮らしについて、筒井氏が本誌・週刊ポストの取材に初めて語った──。
インタビューを行った老人ホームの一室に、筒井氏は車椅子に乗って現れた。そして「ひどい目に遭いましたよ」と語り始めると、今年4月初旬に自宅で転倒し、頸椎を負傷したことを明かしてくれた。麻痺で身体が思うように動かず、入院して1か月以内のことは「思い出したくもないです」とも語った。
そんな入院生活の転機となったのが、4月末にリハビリ病院に移ったことだったという。午前と午後に1~2回ずつのリハビリをこなした筒井氏は「長生きのプラスになるならと随分頑張りました。健康寿命が2~3年は延びたんじゃないですかね」と笑顔を見せた。その軽妙な語り口は、入院以前とまったく変わりない印象だ。
そうしたなかで老人ホームへの入居を選んだ理由を尋ねると、2つの病院で約4か月に及んだ入院生活において、4~5日に一度の頻度で見舞いに来てくれた妻・光子さんへの思いを語ってくれた。筒井夫妻は1965年に結婚し、結婚式の仲人を小松左京夫妻が務めたこともよく知られている。来年で結婚生活60年となる光子さんへの思いを、筒井氏はこう明かす。
「これだけのあいだ夫婦が離ればなれというのは、いかなる理由があろうともおかしい」
「入院中は寂しいんだけれども、一方ではやっぱり、自分を愛してくれている人間がいるんだということを強く思うだけでも、なんか救われるんだよね」
そうして8月末に入居した老人ホームでは夫婦同室で暮らしている。「いまはタバコは吸わないし、お酒も飲まなくなった」という筒井氏は、居室に愛用のノートパソコンを持ち込み、ファンとの交流を目的とするホームページ『笑犬楼大飯店』を更新している。
他にも、入院生活中は「いままでに書いた短篇のことをずうっと考えていた」と明かした筒井氏。インタビューでは昨年11月に「最後の掌篇小説集」と銘打って刊行した『カーテンコール』や、雑誌・文學界に連載中の「自伝」などの作品について、そして65年となる作家生活について振り返っている。