東京や大阪の企業が地方に行くメリットが消える
石破首相は成長戦略の柱として「地方創生」と「最低賃金の引き上げ」を掲げているが、これも頓珍漢だ。
前者は自身が初代の地方創生担当相になった2014年以来「十年一日」であり、「地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指す」としているが、交付金を倍増したところで、自治の権能(立法・行政・司法の三権)がなく「国の出先機関」にすぎない都道府県や市町村には自律的に繁栄する手立てがない。
一方、後者はむしろ地方衰退を加速させる政策だ。かつて私は、福岡県を中心に九州でネットスーパー事業を展開していた。福岡県を選んだ理由は、人件費が安かったからである。当時の最低賃金は650円台だったが、そのレベルでも従業員の大半は自分の軽自動車で通勤していた。大都市より住居費も生活費も安いから、賃金が低くても十分暮らしていけるのだ。
石破首相は最低賃金の全国平均(2024年度は1055円)を「2020年代に1500円」を目指すと言っているが、地方の時給が上がっていくと不動産賃料をはじめとする様々な物の値段も上がっていくから、東京や大阪などの企業が地方に行くメリットはなくなる。ましてや最低賃金が1500円になったら、労働分配率が70%を超えている中小企業は倒産・廃業の山になるだろう。つまり、地方に企業が立地することが難しくなるので、最低賃金1500円は「地方衰退策」と言ってよい。