【書評】『グレートリセット後の世界をどう生きるか 激変する金融、不動産市場』/長嶋修・著/小学館新書/990円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
いま世界の資産市場は、とてつもない高値を付ける全面的バブル状態にあり、このバブルがはじけると、「グレートリセット」と呼ぶべき経済・社会の構造的変化が訪れる。著者の見立ては、いまの評論家の見立ての主流ではないが、私は全面的に賛成だ。
ていねいにデータを見ていけば、異常な資産価格が付いていることは間違いないし、地球環境の破壊や許容できないほどの格差拡大など、グローバル資本主義が限界を迎えていることは、間違いないからだ。
問題は、グレートリセット後にどのような経済・社会が訪れるのかということだ。私は、40年以上続いたグローバル資本主義の真逆のことが起きると考えている。食料やエネルギーは自産自消や地産地消が中心となり、大都市集中が解消して、域内で経済が循環する小さなクラスターが無数に形成されるというイメージだ。
著者の予測でも、ベーシックインカムの導入で、お金に縛られずに、低所得だけれど好きな仕事を続ける人が増えていくという部分は、私の予測に近い。しかし、意外だったのは、著者があと二つのグループの誕生を見込んでいることだ。
一つは、高い能力を存分に発揮して高所得を得るグループ。そして、厳選される成長企業に投資をすることによって、高い投資収益を得るグループだ。私はそうしたグループの存在を想定していなかった。だから、将来の株式や大都市の不動産は、無価値に近いところまで暴落し、二度と戻らないと考えていたのだが、著者の見立てに従えば、すでに高額の不動産や株式が、グレートリセット後にも値上がりを続ける可能性があることになる。
正直言うと、どちらの見立てが正しいのかは、分からない。グレートリセット後の世界を見た人は、まだ誰もいないからだ。しかし、本書が構造転換後の世界を考えるときに、重要な視点を与えてくれることは、間違いない。だから早く読んでおくべきだろう。グレートリセットは、もはや目前に控えているからだ。
※週刊ポスト2024年11月8・15日号