選択肢が広がった糖尿病薬
2型糖尿病を改善するための治療薬は数多く開発されていますが、大きく分けて次の5種類があります。
【1】インスリン
【2】インスリンの分泌を促す薬
【3】インスリンの効きをよくする薬
【4】ブドウ糖の吸収を遅らせる薬
【5】ブドウ糖を尿から排泄させる薬
現在注目されている治療薬は、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害剤」です。DPP-4阻害薬は、食事を摂ると腸管から分泌される消化管ホルモンのインクレチン(GIP、GLP-1)の分解を防ぐことによって、血糖値が上昇した時だけインスリンを分泌して血糖値を低下させる薬です。従来のインスリンの分泌量を増やして高血糖をコントロールする薬では、服用によって血糖値が下がりすぎて低血糖になり、痙攣や昏睡状態になることもありました。しかし、DPP-4阻害剤は低血糖を起こししにくいため、使いやすい経口薬といえます。
GLP-1受容体作動薬は、高血糖の時にインスリンの分泌量を増やすだけでなく、脳に働きかけて食欲を抑制するなど様々な働きをする薬です。また、GLP-1受容体作動薬は低血糖を起こしにくいという特徴もあります。
近年特に注目されているのがSGLT2阻害薬で、過剰なブドウ糖を腎臓で再吸収させず、尿と一緒に体外に排出する作用がある薬で、体重減少の効果も期待できます。糖尿病の治療薬としてだけではなく、慢性心不全や慢性腎臓病の治療薬としても追加承認されているタイプもあります。糖尿病は慢性心不全や慢性腎臓病を併発することも多いので、この薬の服用が様々な症状の改善につながる可能性があります。ただし、皮疹や尿路・性器感染症、脱水など、注意すべき副作用があることも知っておくべきでしょう。
2022年、日本糖尿病学会から薬剤使用選択の決定に役立つ「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」が発表されました。肥満の有無を踏まえたうえで適切な薬を選択すれば、正常な血糖値で生活することが可能になりつつあります。もちろん、食事療法や運動、生活習慣の改善を継続することが重要であるのはいうまでもありません。
【プロフィール】
西村理明(にしむら・りめい)/1991年東京慈恵会医科大学卒業。1997年東京慈恵会医科大学臨床系大学院(内科)修了。1998年Graduate School of Public Health, University of Pittsburgh修了(Master of Public Health取得)。東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科助手などを経て、2019年より同大学主任教授。
取材・文/岩城レイ子