高齢者にとって難聴は放っておくと認知機能の低下を招くため、早期の耳鼻科の受診が肝要となるが、耳の治療で不要な医療費を払っているケースは珍しくない。耳鼻咽喉科日本橋大河原クリニック院長の大河原大次医師は「突発性難聴の検査費」についてこう指摘する。
「難聴には、いわゆる耳が遠くなる状態を指す加齢性難聴と、ある日突然、片方の耳が急に聞こえなくなる突発性難聴があります。突発性難聴では、驚いた患者さんが大病院での頭部CT検査を望むことがありますが、まずは耳鼻科での聴力検査が第一の選択肢となります。数日経っても症状が改善せず、他の病気が原因でないか判別する段階でCTを撮るのであって、最初から行なうと費用がかさんでしまいます」
頭部CTは1回当たり7000円程度(3割負担)と費用が高く、放射線被曝のデメリットもある。起立時や外出時などの「めまい」も頭部の異常を疑ってCTを撮るケースが多いが、無駄な出費になるケースが目立つという。
「めまいの原因の7割は、頭部ではなく耳の障害です。内耳の疾患であるメニエール病など、耳が原因となるめまいでは、目にも異常な動きが出ることが多く、『眼振検査』と問診で診断できるケースが多い。最初からCTやMRIを撮る必要はないのに、慌てて撮影してしまうケースをよく聞くので、冷静な判断が大切です」(同前)
(以下、図表で「見直しを検討したい耳鼻科治療・検査」を紹介)
「様子見の薬」をやめる
耳鼻科の検査では、「副鼻腔炎でのCT検査も不要である場合が多い」と大河原医師は指摘する。
「鼻から目の下や頬のあたりにかけての副鼻腔という空洞に膿が溜まるのが副鼻腔炎です。発症の初期段階を『急性副鼻腔炎』といい、3か月以上続くと『慢性副鼻腔炎』と診断されます。罹患者は国内で100万~200万人程度いると推計されています」(同前)
昨年には、岸田文雄首相やお笑いタレントの有吉弘行が「慢性副鼻腔炎」で手術を受けたことを明かしたが、検査費が問題となるのは「急性副鼻腔炎」の場合だ。
「初期には鼻鏡で観察し、X線(レントゲン)を撮って診断します。このとき、医師によってはCT検査を行なうケースがありますが、手術を前提とする重度の症状や悪性腫瘍の可能性がある場合などを除けば、CTよりも医療費を抑えられるX線で検査すれば十分だと考えます」(同前)
検査費以外にも無駄な出費になりがちなのが、薬だ。
「漫然と飲み続けている耳鼻科の薬はやめていい場合があります。例えば、痰が絡むといって去痰薬を服用されている人は、本当はのどの炎症を治さないといけないのに、なんとなく去痰薬を飲み続けているケースもある。『とりあえず様子を見ましょう』と言って去痰薬や、花粉症の薬である抗ヒスタミン剤などのアレルギーの薬を飲み続けている人は、服用をやめて薬代を減らすことを主治医に相談してみてください」(同前)
※週刊ポスト2024年10月11日号