追い風はアサヒとサッポロに強く吹いている
2023年10月にビールと新ジャンルの価格差がさらに縮まったことに、消費者は敏感に反応した。今年1~9月のビール大手4社の販売数量を見ると、減税されたビールについては前年同期比7%増の数字を残したが、新ジャンルに関しては同26%減に。「金麦」(サントリー)、「本麒麟」(キリンビール)など、消費者に広く浸透するブランドも生まれてきた新ジャンルだが、需要の頭打ちは顕著だ。
経済ジャーナリストの河野圭祐氏は、「減税の追い風はアサヒとサッポロに強く吹いている」と指摘した。「スーパードライ」「黒ラベル」などの定番商品の売り上げ比率が高いため、減税の恩恵が大きいと考えられるのだ。一方、発泡酒や新ジャンルの新商品開発で活路を見出してきたキリンやサントリーは、新たな“柱”が必要となった。
2023年4月、サントリーは他社の主力が集まる中価格帯(スタンダードビール)で「サントリー生ビール(サン生)」の販売を開始。高価格帯でヒットした「ザ・プレミアム・モルツ」とは別のフィールドで勝負に出た。若年層の受け入れを狙ったライトな飲み口などが奏功し、発売初年は目標を3割上回る399万ケースを売り上げた。
そこには、小売店の棚を獲得するための熾烈な生き残り競争や社内のキャンペーンも含めたサン生のファンを増やすための様々な取り組みがあった。
一方のキリンビールは、同じスタンダードビールの分野で今年4月に「晴れ風」を発売。大きな注目を浴びるヒット商品となった。9月末までに460万ケースを売り上げている。
同社はこの価格帯に「一番搾り」や「キリンラガー」を擁するが、そこからさらに新たな顧客層を開拓した格好だ。「業界の常識では“青系のパッケージは売れない”とされるなか、ターコイズブルーでいくまでには社内でも賛否があった」(同社社員)という声もあり、検討を重ねたの末に生まれたヒット商品だろう。
迎え撃つアサヒビールは、スーパードライブランドの強みを活かし、昨年10月にアルコール度数を3.5%に抑えたビール「ドライクリスタル」を投入。各社が新しい取り組みで棚を奪い合う熾烈な争いとなっている。