2020年10月から段階的に進められている「酒税改正」により、ビール業界で熾烈なシェア争いが巻き起こっている。経済ジャーナリストの永井隆氏はこう解説する。
「『安くてうまい』と消費者に支持されてきた“第3のビール(新ジャンル)”の税率引き上げと、ビールの税率引き下げが行なわれ、両者の価格差が小さくなりました。消費者も、発泡酒や新ジャンルから元のビールに回帰する動きがあり、メーカー側もそれに応じて新たな定番ビールを発売する動きを見せています」
税率改正に合わせて、コンビニのビール棚の奪い合いも激化している。半年に1度、各コンビニ店舗で勤務している消費経済アナリストの渡辺広明氏に話を聞いた。
「ビール大手各社は、基本的には春夏向けと秋冬向けと季節の変わり目に合わせて、約半年に1度の間隔で主力ビールの新商品を投入しています。ただし、数量限定販売商品やリニューアル商品まで含めれば、毎月のように大手各社の新商品が投入されています。
しかし、コンビニは売り場面積が狭いため、スーパーやドラッグストアなどと比べて置ける商品数に限りがある。『スーパードライ』(アサヒ)や『一番絞り』(キリン)、『黒ラベル』(サッポロ)など、各社の主力商品は不動の存在として常時棚に置いてあるため、新商品はそれ以外の棚を争い、そこで勝ち残った商品だけが生き残れます。ほとんどの新商品は半年と持たず消え、3年以上残るものは主力商品がほとんどで、新商品が定番になるのは非常に少ないのが現状です」
大手ビール会社の営業担当に泣きつかれた
棚を確保し続けられる商品と消えていく商品はどのように分かれるのか。
「商品の売れ行きはすべてPOSデータで管理されています。売れない商品は、購買数をみてコンビニ本部に判断され、数字を理由に切られていきます。ただ、実際には大手ビールメーカーさんとの付き合いもあるので、数字がイマイチでもメーカーが販促キャンペーンをやってくれるなら残すといった判断も稀にあります。それでも数字があまりにも悪い商品は残りません」(渡辺氏)
渡辺氏が過去にローソンで地区バイヤーをやっていた頃は、ある大手ビール会社の営業担当から泣きつかれた経験もあるという。
「20年以上も昔のことですが、ある大手の主力商品で売れ行きの悪いビールがあったので取り扱いをやめると話したところ、『キャンペーンでも何でも協力するから残してくれ』と言われたことあります。『うちの主力ビールがコンビニから消えては、社の沽券に関わる事態だ』と頼み込まれ、顧客と店舗にメリットのあるキャンペーンを提案されたため、残す決断をしました」(渡辺氏)
なぜメーカーはそれほどコンビニの売り場を重視するのだろうか。
「日本のコンビニ利用者数は年間約162億人に達しており、コンビニは日本人の縮図のような売り場です。そこで購買数が良くないということは、他の小売業態でも基本的に数字は良くないと判断する指標になります。
コンビニは基本的には安売りしないため、定価販売の数字、つまりメーカー希望小売価格に近い価格の数字が現われます。つまりコンビニの数字をみれば、その商品自体を世間の消費者がどう評価していて、メーカーと消費者の乖離がどの程度あるのかという点が、明確に数字として出るのです」(渡辺氏)
私たち消費者の見えないところでは、目まぐるしい商品争いが行なわれているようだ。
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