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トランプ政権が目論む対中国「60%の追加関税」に広がる抜け穴 中国が着実に進める迂回輸出・生産移転、逆に国際競争力を高める羽目にもなりかねない

トランプ氏の目論見通りの結果になるのか?(Getty Images)

トランプ氏の目論見通りの結果になるのか?(Getty Images)

 トランプ次期大統領の公約通り、米国が中国からの輸入品に対して一律60%の追加関税をかけるとすれば表面上、中国経済への影響は大きいように見える。

 2024年1~10月における中国の国別輸出先をみると、米国は4278億ドルで全体の14.6%を占める。第2位ベトナムの輸出シェアは4.5%、第3位日本は4.3%に過ぎず、ASEANの16.1%よりは低いが、EUの14.6%に匹敵する。経由地となる香港向けが8.1%あり、渡った先の一部が米国に流れることを考慮すれば、実体ベースの米国比率はもっと高いことになる。

 トランプ前政権は2018年7月以降、中国原産品に対して段階的に最大25%の追加関税を付加しているが、それをはるかに超える一律60%の関税が課せられれば、中国の輸出業者が利益を圧縮させて輸出価格を下げたとしても、追加関税相当を吸収することは難しく、現地での販売価格は大幅に値上げされてしまう。他国輸入商品、もしくは国内商品で代替しにくいものについて、その商品がどうしても欲しい米国消費者はその価格を許容しなければならない。

 代替しやすい商品について、その代替品を買うとすれば、追加関税がかかる前の中国商品よりは価格面、品質面で競争力の劣るもので間に合わせなければならない。いずれにしても、中国企業、米国消費者が損をして、追加関税を徴収する米国政府が得をするということになる。米国消費者にとっては、特定商品だけに消費税増税が課せられたような感覚であろう。

米国向け製品をベトナム経由で迂回輸出

 もっとも、経済活動はそれほど単純ではない。追加関税ショックに対して各主体が利益追求あるいは損失回避のために必死の行動を取る。その効果がショックの多くを吸収する点に注目する必要がある。

 供給側が取り得る対策としてまず考えられるのは、別の国を経由させて米国向けの商売を継続させることだろう。日本でも価格の安い外国産アサリを輸入し、しばらく国内の砂地で生かして置いた後に価格の高い国産アサリと偽装して販売するといった違法行為が報告されている。アサリのように、単品で検査が比較的簡単な商品なら防ぐことはそれほど難しくないのかもしれないが、中国の米国向け輸出商品は多種多様、対象となる経由国は少なくない。それらを漏れなく取り締まるシステムを作るのは簡単ではないし、コストもかかる。

 また、少し時間はかかるが、供給側は他国に生産拠点を移転ないし、確保する方法もある。前述の1~10月の国別輸出統計をみると、全体の輸出の伸びは5.1%、米国向けは3.3%だが、ブラジル向けは24.9%、ベトナム向けは18.7%、マレーシア向けは14.0%、インドネシア向けは13.8%、メキシコ向けは11.7%、タイ向けは11.1%増だ。なお、日本向けは4.4%減となっている。

 こうした国々の内需が拡大していることが要因ということではなく、米国による対中強硬策が将来より厳しくなることを見越して、中国企業が米国向け製品の迂回輸出先としてこれらの国々を巧妙に利用していたり、加工組み立て部分を中心に現地への生産移転を進めたりした結果だとみられる。ちなみに、これらの国々に対する2023年における輸出の伸び率についても、すべてが全体の輸出の伸び率を上回っている。迂回輸出、生産移転は2018年以降、着実に進んでいるのが現状だ。

 特に、ベトナムへの輸出急増は目覚ましい。2023年のデータでは日本が第2位の輸出先であったが、2024年は日本を抜くことがほぼ確実だ。2023年におけるベトナムの名目GDPは日本の10%しかないことを考えると、ベトナムが一大経由地となっている可能性が極めて高い。

 さらに泥臭いことを言えば、米国内外で価格差が大きく広がることから密輸が今後、急増するだろう。厳重に取り締まりを行っている麻薬ですら、撲滅にはほど遠い状況だ。法の網を潜り、安く中国商品を米国に持ち込む業者が後を絶たないであろう。

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