しかし、調停がまとまらなければ、地方裁判所に賃料増額請求の裁判を提起する必要があります。裁判所は【1】~【4】の事情を判断して、増額請求した時点の適正な賃料を決定します。その場合、調停委員会の意見を尊重するのが普通です。
裁判所が認めた額が従来の賃料より多くても、借主がそれまで従来の額を支払っていれば、家賃の不払いにはなりませんから、貸主は契約を解除できません。つまり、Aさんの退去要求は無理です。
しかし、借主は増額請求の時点以後の差額と、その差額に年10%の利息をつけて支払う義務が生じます。
もしこれまで何回も値上げをしたことがあれば、その値上げを請求した時点ごとに相当な賃料の額が検討されることになります。
重要なのは、いくらの賃料増額請求をいつしたか証拠を残すことです。そのため、増額請求する場合は内容証明郵便などで行うのが一般的です。
このままAさんが値上げに応じないようなら、一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※女性セブン2024年12月5日号