「年収103万円の壁」の引き上げは実現するのか。玉木雄一郎・国民民主党代表が掲げる減税策の“最大の壁”となっているのが財務省だ。その工作は、与党や地方自治体、そしてメディアや野党にまで及ぶと見られている。その中心にいるのは、一体誰なのか。【前後編の前編】
減税を3分の1に抑えろ
自公両党は、国民民主党との間で「年収103万円の壁」の引き上げ、いわゆる“玉木減税”の実施で一応、合意した。
だが、具体的な「手取り増」がいくらになるかは今後の税制改正の議論で決まる。その減税交渉を前に、財務省は減税の規模を小さく抑え、国民の手取りを増やさないための工作を展開している。自民党政調関係者が語る。
「財務省は与党の政策担当者を中心に熱心にレクに回っていますよ。物価や賃金推移などに関する大量の資料を持ってきて、消費者物価やパートの平均賃金は1995年と昨年を比較すると約1.1倍。物価上昇に合わせると、103万円の壁を113万円程度に引き上げるのが妥当で、玉木の言うように178万円まで上げるのは財政への影響が大きすぎると説明している」
国民民主の主張は所得税の「年収103万円の壁」(課税最低限)が1995年から変わっていないことから、基礎控除を増やして課税されない年収の壁を178万円まで引き上げるというものだ。年収500万円のサラリーマンならざっと年13万円の減税となり、その分、手取りが増える。減税規模(所得税・住民税の税収減)は7.8兆円だ。
それに対して財務省側が与党議員に説明しているように、課税最低限を「113万円」までしか引き上げない場合、税収減(減税規模)は1兆円程度に抑えられる。
さらに、石破茂・首相の側近として知られる佐藤正久・自民党幹事長代理は11月17日のテレビ番組で別の案を提示した。
「生活物資という部分(の物価上昇率)に注目すれば、128万円とか(が引き上げ上限になる)」
課税最低限を128万円にした場合の減税規模は約2.6兆円、年収500万円の手取り増は約3万7500円となる。
「財務省が主張する1兆円減税では玉木は納得しないから、官邸の意向を汲んだ佐藤さんが落としどころとして128万円を示した。これなら玉木減税を3分の1に抑えられる。財務省が大きく値切り、自民党が国民民主に譲歩したふりをして少し上乗せする。全部財務省のシナリオです」(前出・自民党政調関係者)