野生のヘビと出くわしたとして、喜んで近づく人は少数派だろう。一般的にヘビは嫌われ者だ。不用意に近づけば攻撃してくるし、毒を持ったヘビに咬まれると、最悪の場合は命を落とす危険もある。そんなヘビだけど、生態や人間社会・文化との関係を知れば、決して悪い奴らではないと分かるに違いない。
折しも来年、2025年は巳年。日本で唯一のヘビの動物園であり、ヘビの生態・毒についての研究機関でもある「ジャパン・スネークセンター」(群馬県太田市藪塚)の研究員たちが得意分野を分担して書いた新刊『ヘビ学 毒・鱗・脱皮・動きの研究』(小学館新書)より一部抜粋、ここでは「ヘビの種類」について紹介しよう。なお、世界に4100種も生息するヘビを丁寧に分類し、特徴を解説すると何ページあってもたりないし、読者には“蛇足”だらけになってしまう。極めて“ざっくり”した内容であることにご留意願いたい。
目次
ナミヘビの仲間は、ヘビ界の「最大勢力」
全世界でヘビは約4100種が確認されている。ナミヘビ科は2000種以上で、最も種数が多い。全長数十cmのものから3mに達するものまで生息する。
南極大陸を除く各地に生息し、陸棲、樹上棲、地中棲、水棲などと生息環境も多様性に富む。ただしウミヘビ類のように、完全に海洋に棲むものはいないものの、水棲のものは泳ぎが得意で魚類を捕食するものも多い。
ナミヘビ科の代表格アオダイショウは、大型の個体になると哺乳類や鳥類を捕食するが、中型のヤマカガシは両生類や魚類を捕食することが多い。さらに小型種ではミミズなどを捕食する種も多く、日本国内だけでもナミヘビ科の生態は多種多様だ。
広い範囲の餌を食べる(好き嫌いが少ない)種もいれば、特定の生物ばかりを捕食するヘビもいる。前者の代表格がシマヘビ、後者がヤマカガシである。
シマヘビは幼体のうちは小型のカエルを捕食することが多いが、成長するにつれて哺乳類や鳥類も食べる。また、水田に棲むシマヘビはカエル、畑に棲むシマヘビはネズミというように、環境によって捕食しやすい餌を選ぶ。ならば昆虫やミミズ類も食べてしまえば餌に困らないように思えるが、これらを捕食することはほとんどない。理由は不明だが、食性の幅には限界があるようだ。
一方、ヤマカガシは幼体から成体になるまで、餌は両生類と魚類に限られる。多種のカエルが生息する地域に棲む個体であれば、季節によって活動性が異なる数種のカエルを食べ分け、1年を通じてカエルを主食にできる。ただし、カエルの種類が少ない地域では、特定の季節にしかカエルを捕食できなくなってしまう。
食料確保という意味では、シマヘビに比べてヤマカガシが不利に思えるが、カエルの豊富な地域ではカエル専食に進化してきたヤマカガシが有利になることもある。ただし、田んぼが潰されてしまえばそこに生息するヤマカガシは危機を迎える。