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大竹聡の「昼酒御免!」

100年以上の伝統を引き継ぐ琥珀色のハイボール 「浅草たぬき通り」に漂う名門酒場の風格

この氷なしハイボールを飲まなきゃバーは語れない

この氷なしハイボールを飲まなきゃバーは語れない

 お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。今回は下町でハイボールを飲みながら、バーのあれこれについて思索する。【連載第5回】

 * * *
 浅草は、好きな街だ。東京の西側出身の私には長く縁遠い場所だったが、年を重ねるにつれて好きになった。父が一時、浅草に住んでいて、私の子供がまだごく小さかった頃――35年ほど前になるが――に浅草を訪ねるようになり、それからしばらくご無沙汰をしたのだが、40歳を過ぎる頃からまた、じわじわと好きになった。

 この街で酒を飲むとき、私は不思議に落ち着いた、いい気分になっている。正真正銘の下町の雰囲気がそこかしこにある。俗に三代続かないと江戸っ子と言わないらしいが、渋い酒場の女将さんに出身地を聞いたら遠い南の島だったことがあり、驚愕した。なにしろ、女将の話ぶり、身のこなし、ちょっと気短かな感じのする風情が、生粋の江戸っ子に見えたからだ。

 浅草は、訪れる人も江戸っ子風に染めてしまうような、不思議な力をもった街なのかもしれない。

 そして、昼酒をしたい人にとって浅草は、店選びに困らぬ街である。

 蕎麦屋、寿司屋、洋食屋、とんかつ屋、あるいは喫茶店。どこで飲んだっていいし、ホッピー通りなる、素敵な名前の通りもある。この通りの一軒を選び、ただぼんやりと飲む午後のひとときというのは、なかなかオツなものである。今回訪ねるのはしかし、上記のような店ではない。昼から飲めるバーへ行こうと思います。

 雷門に向かって立ち、門をくぐらず、左手の細い道を入っていき、扇子や団扇の店、文扇堂の角を左へ折れる。そこは雷門柳小路。これを進むと、とても渋い寿司屋の前を通る。紀文寿司という店だ。ここで絶品の寿司をつまみながら飲むのもこの上ない楽しみだけれど、本日はその先、オレンジ通りを右へ入り、すぐに左に入る。そこはたぬき通りだ。しばらく行くと、ファサードに蔦を這わせた一軒家が左手に見えてくる。

 そこが「浅草サンボア」。本日の目的地であります。ブリティッシュな構えの路面店、いいですよねえ。ここが、午後2時から開けているバーなのです。

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