5年に一度の年金制度の見直しの全容が明らかになってきた。とりわけ注目すべきは、60歳以上で働きながら年金を受け取る人の「支給停止」をめぐるルール改正だ。たくさん稼ぐと年金がカットされてしまう──そんな“常識”が大きく変わろうとしている。働きながら年金を受け取る人にとって、どのような変化が生じるのか。
今回の年金改正で大きな柱となるのが、働きながら受給する人の「在職老齢年金」制度の見直しだ。
シニア世代の就業率は年々上昇。2023年の総務省「労働力調査」によると、男性の就業率は60代前半で84.4%、60代後半では61.6%、70代前半でも42.6%に達している。厚生年金の受給開始を遅らせる繰り下げ率はわずか2%前後にすぎず、65歳以降のサラリーマンのほとんどが年金を受給しながら働いている。
しかし、そうした場合に大きなネックとなっていたのが「在職老齢年金」制度による年金カットだ。「給料+年金(厚生年金の報酬比例部分)」が月50万円を超えると、超過分の半分の年金が減額(支給停止)される。いわば年金減額の「50万円の壁」だ。現在、実際に年金カットされている人は働きながら年金を受給している約308万人のうち約50万人もいて、支給停止の総額は年間約4500億円にのぼる。
内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」(2024年)によると「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」で、「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」と回答した人は60代前半で49.4%、60代後半でも31.9%を占めた。
本来ならもっと稼げるはずなのに、「50万円の壁」があるため、年金カットされないように働き控えで給料を低く抑え、収入増の機会を失っているのだ。
今回の年金改正では、この在職老齢年金制度の抜本的な見直しが議論されている。厚労省が社会保障審議会年金部会に提出した資料では、年金支給停止になる「給料+年金」の金額を現行の50万円から、62万円または71万円に引き上げる案、完全廃止してどれだけ稼いでも年金カットされない案の3つが提案された。