生活習慣の乱れから肥満になり、ドミノの駒が倒れるように動脈硬化から糖尿病、脳卒中、心不全に至ることがある。内臓脂肪型肥満はなぜ消化器系がんの発症リスクを高めるのか──。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、メタボリックドミノの概念を確立した慶應義塾大学予防医療センター・伊藤裕特任教授が解説する。【メタボリックドミノと健康寿命・前編】
将来発症する病気を予見する
今から約20年前、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、それぞれ別の病気に分類され、高血圧は循環器内科、糖尿病は内分泌代謝内科というように異なる診療科で治療するのが一般的でした。ところが、高血圧や糖尿病を併発している患者には「肥満」という共通点があり、しかも、内臓の周りに脂肪が蓄積した「内臓脂肪型肥満」が多く、様々な病気の発症リスクになっていることが認識されはじめました。
複数の自覚症状のない生活習慣病が同時に発症する事象(=病気の重積)が「メタボリックシンドローム」(以下、「メタボ」)で、放置しておくと時間の経過とともにそれぞれの病気が影響し合い、次々と重篤な病気を引き起こすという考えに至りました。
生活習慣の乱れが肥満につながり、血圧や食後の血糖値の上昇、脂質異常の症状が同時に引き起こされる。まだこの段階で糖尿病は発症していませんが、病気の重積によって動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中を発症します。やがて糖尿病を併発して血管系の病変はさらに悪化し、神経障害や失明、腎臓病による人工透析などを余儀なくされます。このように臓器同士の連関によって、次々と病気を発症していく状態── これが2003年に私が世界で初めて提唱した「メタボリックドミノ」の考え方です。
「メタボリックドミノの概念図」は、病気発症の危険因子を「ドミノ倒しの駒」と考え、ドミノが次々と倒れ、心血管疾患や脳卒中などが起こる全体像を表わしています。心血管疾患で命を落とす人が減り、認知症や心不全が増加しているというのが最近の傾向です。また、一連の疾患にはがんやサルコペニア(加齢に伴い骨格筋量が減少し、筋力が衰える状態)も高い確率で起こることが知られるようになりました。
見方を変えると、様々な病気の「重積」と、発症する「順番」や「時間」という要素を加味しているメタボリックドミノの考え方で、将来発症する病気を予見できるのです。