木原:ポーカーで参加率が高くても勝てるのは、ごく限られた人だけです。そこまで強くなるための勉強をしていないのに、自分がその限られた層に入っていると思えるのが不思議でしょうがないですね。実際、そういう人はすごく多いんですよ。
エミン:そういう錯覚に陥りやすいところも、ポーカーと株式投資の共通点のひとつだと思います。たとえば休日に趣味でテニスを楽しんでいる人が、自分が全米オープンで優勝できるなんて普通は思いませんよね。
それが株式投資になると、自分でもそのレベルの成功をつかめると思っちゃう人が多い。書店では「株で億り人」といったタイトルの本がたくさん並んでいて、今も昔もそれなりに売れています。でもそんな本の著者でさえ一発屋みたいな人も多くて、毎年何億も稼ぎ続けている人なんてごく一部でしかありません。
木原:ポーカーでも、最初から大金を獲得することを狙って身の丈に合わないテーブルに座り続けたら、ボコボコにやられるだけなんですけどね。株式投資も同じであることは、容易に想像できます。
エミン:ただ、運の中にも分散があって、ごくまれに一発屋を実現してしまう人もいるのが面白いところです。私は「運命の分散」と呼んでいるのだけど、たまたま勝つという幸運がどんな局面でめぐってくるかで、その結果は大きく変わるんです。
たとえば、ものすごいツキが巡ってきたのがWSOPのメインイベントであればその人の運命は大きく変わるけれど、無料で遊べるポーカーアプリのトーナメントだったら、人生になんの影響もありません。
株式投資でも同じで、何のスキルも持たない人がたまたま小遣いで初期のエヌビディアを買ったまま何年も忘れていて、気が付いたら数億を手に入れるということもあるわけです。しかし、そういう人が将来も同じ幸運に恵まれると信じて、その利益でトレードをすればするほどお金をなくしてしまう。やっぱり、投資家としてのスキルを上げることなく、取引を増やすようなことをしてはだめなんだよね。
木原:日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)に連動するインデックスファンドに突っ込んで、あとは余計なプレーをしないことは多くの人にとって最適解のひとつだと思います。株や投資が好きな人は別ですけど、多くの人は興味も時間もありませんから。
エミン:投資の場合はポーカーと違って、長期投資という選択肢がある。長期になれば当然、取引回数が減るから、負け込む可能性も大きく減らせると思います。
そもそも、個人投資家が毎日取引する必要はまずありません。私は主に大型のバリュー株か中小型株に投資しますが、だいたい3~5年ぐらいの期間を目安にして、中小型は3~5倍ぐらいの株価上昇を狙います。私に限らず、普通に仕事を持って忙しくしている個人投資家には、一番向いている方法だと思います。
短期取引は楽しいけどね、エキサイティングだからやりたい気持ちはよくわかります。だけど、よほどの覚悟がない限りやめた方がいい。大事なお金を減らしたくないならね。
木原:期待値がマイナスだと理解して楽しむ分には、悪くないですけどね。1日デイトレードをして1万円負けるのと、テーマパークで1万円使って遊んでも、1万円がなくなるのは同じですから。
(前編から読む)
※エミン・ユルマズ氏、木原直哉氏の共著『「確率思考」で市場を制する最強の投資術投資』を元に一部抜粋して再構成
【プロフィール】
エミン・ユルマズ/エコノミスト、グローバルストラテジスト。レディーバードキャピタル代表。1980年生まれ、トルコ・イスタンブール出身。1996年に国際生物学オリンピック優勝。1997年に日本に留学し東京大学理科一類合格、工学部卒業。同大学院にて生命工学修士取得。2006年野村證券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に携わった。2024年レディーバードキャピタルを設立。ポーカーネームは、JACK。著書に『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『エブリシング・バブル終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025』(プレジデント社)など多数。
木原直哉(きはら・なおや)/プロポーカープレイヤー。北海道名寄市出身。2001年に東京大学理科一類に入学。2012年WSOP $5000 Pot-Limit Omaha 6-Handedで優勝し、日本人初のブレスレットホルダーに。著書に『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』(KADOKAWA)、『運と実力の間』(飛鳥新社)、『たった一度の人生は好きなことだけやればいい!東大卒ポーカー世界チャンプ 成功の教え』(日本能率協会マネジメントセンター)、近著にエミン・ユルマズ氏との共著『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』がある。