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あぶない中国共産党

【橋爪大三郎氏×峯村健司氏】中国共産党にとって「不都合な真実」を理解しなければ外交もビジネスも成り立たない 国を挙げて研究すべき課題に

G20サミット2日目の集合写真の撮影に応じる各国首脳(11月19日。写真/AFP=時事)

G20サミット2日目の集合写真の撮影に応じる各国首脳(11月19日。写真/AFP=時事)

中国共産党の正統性に関わる「台湾問題」

橋爪:いわゆる歴史問題では、中国が日本に対して「歴史を歪曲している」とかいろいろ言っています。でも、歴史をいちばん歪曲しているのは中国共産党です。反論したいのなら、「歴史を歪曲していません」などと言い訳するより先に、中国の歴史を詳しく調べ、グウの音もでないように証拠を集めておくべきだ。それを、中国に向かって大っぴらに言いふらす必要はありません。でも、「いざとなれば反論できる」態勢をつくっておくことが大事です。

峯村:そのとおりですね。歴史問題の一例として、中国が領有権を主張し領海侵犯を繰り返す尖閣問題があります。これについては1950年代に中国政府が発行した地図に、中国側が主張する「釣魚島」ではなく、日本名の「尖閣諸島」と明記されているものがある。その時点では「尖閣は日本領土である」と中国側も認識していた証拠です。私の知り合いの外交官が長年かけて見つけた一級資料です。

 しかし、この外交官が発見した当時、これを公開することに日本政府は消極的だったそうです。おそらく幹部の一部が中国の反発を恐れたのでしょう。日本政府は忖度するのではなく、戦略的にそうした証拠を集めておいて、外交上の駆け引きで勝負する時に出す、という姿勢が必要だと思います。

 このことは対中政策を考えるうえでもきわめて有効です。実は中国共産党は自らの「中国共産党史」をまだつくることができていません。中国共産党にとって「不都合な真実」があるからです。

 なかでも日中戦争前後の歴史については、共産党の統治の正統性にもかかわる最も重要な部分です。共産党は「国民党と日本を打ち破って新中国を樹立した」ことを正統性の拠り所にしています。ところが実際に日本と真正面から戦ったのは国民党です。むしろ共産党は、日本と水面下で連携して国民党に対抗する動きすらあった。

 その国民党が敗戦後に移ったのが、それまで日本が統治していた台湾です。その日本と国民党という2つの「矛盾」をはらんでいるのが「台湾」と言い換えることもできます。だからこそ、「台湾問題」の解決が中国共産党にとって死活的に重要なのです。「台湾問題」を解決するまでは中国共産党は自らの歴史を定義づけることができないのです。

 この「台湾問題」を解決して歴史を打ち立てようと躍起になっているのが、習近平政権です。習近平は最近、歴史資料を収蔵する「国家版本館」を北京に建設し、資料集めを指示しています。これも習近平が真剣に党の歴史づくりを進めている一環でしょう。

 日本もこれに対抗して、尖閣を含む沖縄県のほか、台湾についてのファクトやエビデンス、文献を集めて研究を深める作業を国を挙げてすべきです。

橋爪:私の手元にある四巻本の『中国共産党史』は、台湾(国民党)が出したものです。それなりに詳しいが、よその国に任せていてはいけない。

(シリーズ続く)

※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成

【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。

峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。

橋爪大三郎氏と峯村健司氏の共著『あぶない中国共産党』

橋爪大三郎氏と峯村健司氏の共著『あぶない中国共産党』

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