「財政均衡主義」を掲げ“高齢者いじめ”をする官僚たち
厚労省は11月21日の社会保障審議会医療保険部会で、高額療養費制度の上限額の引き上げ案を提示。その後の部会で引き上げ幅5~15%を軸として調整に入ったというのだ。
政府が邁進する医療費負担増の企みはこれだけではない。ターゲットとなっているのが、75歳以上の後期高齢者の医療費負担だ。当初は無償だった後期高齢者の窓口負担は2001年に1割負担となり、2006年から現役並み所得者は3割負担となった。2022年からは住民税課税所得が年間28万円以上など、一定以上の所得のある人は窓口負担が1割から2割に引き上げられている。
さらに、である。政府は9月13日に閣議決定した高齢社会対策大綱の中に、後期高齢者について医療費の窓口負担の拡大に向けた検討を行なう方針を盛り込むとともに、3割自己負担となる人の対象範囲拡大に向けて「検討を進める」と明記したのだ。
高齢者いじめともいえる制度改悪の原因は、行政を司る官僚たちの「財政均衡主義」にほかならない。経済学的に何の問題もない財政赤字をことさら問題視し、「国の財源を逼迫させている一因は高齢者の医療費である」として、高齢患者から命の金を吸い上げている。
高齢者に負担増を集中させることで、現役世代のガス抜きをする意図も透けて見える。
国民の命よりも数字を守ることを優先する官僚によって、高齢患者が殺されていくのである。
【プロフィール】
森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。
※週刊ポスト2024年12月27日号