米国を中心に海外ビジネスを急拡大させたTikTok
字節跳動は1983年生まれの張一鳴氏が創業者だ。2006年にネット検索会社の技術部門での勤務を皮切りに、ネット関連企業の設立、売却を繰り返し、2012年に5回目の創業として設立したのが字節跳動の前身企業だ。ネット関連の技術者であると同時にアントレプレナーである張氏は、開業初年度となる2012年には早くも米国のVCであるサスケハナ・インターナショナルから資金調達するなど、海外からの資本を頼りに買収を繰り返し、業容を拡大してきた企業である。
TikTok事業の原型は2016年9月に中国国内の傘下企業で始まったが、2017年11月に米国のショートビデオプラットフォーム“Musical.ly”を買収したことで、米国事業を中心に海外ビジネスが急速に拡大したといった経緯がある。
複数の中国本土マスコミ情報(ただし、2024年3月時点)によれば、字節跳動の発行済み株式総数の60%はカーライル、ジェネラル・アトランティック、サスケハナ・インターナショナルといった米国の投資会社などが所有しており、20%がグローバル従業員持ち株会、20%が張氏による所有だ。董事会(取締役会に相当)の構成員をみると、CEOは中華系シンガポール人で、その他のメンバーも出資者である投資会社から出ている。
米国TikTokは米国の監督管理下にあり、データ管理はすべて米国で行われている。同社の事業・財務ストラクチャーは欧米系金融機関が懇切丁寧に指導してきたはずだ。現在2680億ドル(41兆円、1ドル=153円)と言われる事業価値も、上場できなければ大きな投資リターンは得られず、絵にかいた餅である。中国政府との関係について詳細なディスクローズがなければ、引き受け業務を行う金融機関は投資家から訴えられるリスクが出てくる。
もし、実際に最大の収益セクターである米国TikTokにおいて、その情報が中国政府に漏洩しうるような形でしか企業リストラが出来ないのなら、そもそも上場は不可能だ。さらに、中国企業が米国企業から情報を得ようとする動機があるとすれば、それは米国内の政治的な撹乱ではなく、米国に住む中国人やその協力者たちの反共活動、あるいは犯罪者の把握などだろう。米国の国家安全を脅かす脅威として過度に警戒する必要はないのではないか。