インサイトの反対のアプローチは「試行錯誤」
「インサイト」に関する学術的な研究は意外と少ないのですが、今から100年ほど前にエストニア出身のドイツ人心理学者ヴォルフガング・ケーラーが面白い実験をしています。
お腹を空かせたチンパンジーに対して、バナナを天井から吊るしました。でも、バナナはチンパンジーがジャンプしても届かない高さにあります。部屋には木箱を3つ用意しました。すると、チンパンジーは、3つの箱を積み上げてその上に乗って、見事に一発でバナナを取ることができました。ケーラーはこれを「インサイト学習」と呼びました。
ケーラーは、「インサイト学習」とは「問題解決において、試行錯誤的に解決手段を探していくのではなく、諸情報の統合によって一気に解決の見通しを立てること」と定義しています(*注:『類人猿の知恵試験』(ケーラー著 宮孝一訳 岩波書店)、『欲望とインサイト』(坂井直樹・四方宏明共著 スピーディ)を元に筆者まとめ)。
それでは、「インサイト学習」の反対とは何でしょうか? それは、アメリカの心理学者、エドワード・ソーンダイクが提唱した「試行錯誤学習」というモデルだと言えるのではないかと、筆者は考えています。
ソーンダイクは次のような実験をしました。お腹を空かせた猫を柵のついた箱に入れます。柵の外には餌があります。箱の中には紐がぶら下がっており、紐を引くと柵が開く仕組みになっています。
すると、最初、猫は餌を取ろうとするが、柵があるのでうまくいきません。何度か餌を取ろうと繰り返して、何かの拍子に「偶然」によって「たまたま」紐を引くと、柵が開いて餌を取ることができました。この「たまたまの偶然的試行」を繰り返すことで、猫は「試行錯誤」的に問題解決をし、成功までにかかる時間を少しずつ短縮させていきます。
猫の一連のこの試行には、チンパンジーの「問題解決において、諸情報の統合によって一気に解決の見通しを立てる」ような「インサイト学習」は見られませんでした。