できることに意識を向ける
大切なのは数値ではなく、「自分の感覚のバロメーター」に従うこと。何らかの不調が出ているなら薬を飲めばいい。しかし、不調もないのに薬を飲む必要はありません。
数値には大きな個人差があります。健診の数値だけを見て「薬を飲んで」という医師からは早く逃げたほうがいいでしょう。
恐れられている「がん」についても、勘違いしている人が多いようです。がんが見つかるとすぐに手術となりがちですが、80代になったら「がんは切らなくていい」というのが私の考えです。
がんの手術は負担が大きく、体力が大幅に落ちてしまう。またがんの進行は歳を重ねるごとに遅くなるので、結果的に切らないほうが長生きできることも多いのです。
がんは手遅れになるまで痛くもかゆくもないケースが多く、もし見つかったら「あったらあったで仕方ない」ととらえ、「がんとともに生きる」ことを考えるほうが生活の質は上がります。そもそも85歳を過ぎれば、ほぼ全員にがんがあるといわれています。
歳を重ねれば、体の機能が衰えてくるのは自然なこと。それを受け入れることが大切です。「あれができなくなった、これもできなくなった」と考えていると、脳の老化が早まり、老人性うつにつながりやすいことがわかっています。
逆にまだこんなに歩ける、こんなに食べられる、と「できること」に意識を向ける。「できる範囲で頑張ろう」と思えるようになれば、より意欲的に、より楽しく生きることができるはずです。
食事も好きなものを食べて、笑顔で過ごすほうが免疫力が上がり、結果的に病気も遠ざかります。
幸せな老後を生きる「幸齢者」になる道は実に簡単なのです。
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書に『80歳の壁』『幸齢者』『医者にヨボヨボにされない47の心得』など。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号