「2つの和平」も実現は容易ではない
外交問題について言えば、ウクライナ戦争は、トランプ大統領がゼレンスキー大統領を譲歩させれば終結する。もともとプーチン大統領は「ミンスク合意(2015年にベラルーシの首都ミンスクで結ばれたロシア・ウクライナ間の紛争に関する停戦協定。ロシア系住民が多いウクライナ東部での停戦と自治権付与などで合意した)」の履行を求めていたが、ゼレンスキー大統領はそれを履行しないばかりか、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)への加盟を画策したため、ロシアが武力侵攻に及んだ経緯がある。おそらくトランプ大統領は、恣意的な判断で線引きをした非武装地帯を設定するなどの停戦案を提示するのではないかと思うが、窮地に立たされているゼレンスキー大統領は、それに同意するしかないだろう。
パレスチナ問題では、トランプ氏はイスラム主義組織ハマスに対し、自身の大統領就任までにイスラエルで拉致した人質を解放するよう求め、応じなければ「地獄の代償」を払うことになると警告している。この問題は、イスラエルとパレスチナの2国家共存に向けた「オスロ合意(1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が合意した一連の協定)」の原点に戻り、パレスチナ政府が機能するまではパレスチナ自治区を関係各国が信託統治にすればよいと思う。
この2つの和平を主導できれば、トランプ大統領は念願のノーベル平和賞をもらえるかもしれない。だが、その実現は容易ではない。
いずれにせよ、第1次政権時も、トランプ大統領は様々な政策を派手にぶち上げたが、結局は何も変わらなかった。今回も、4年の任期が終わってみれば、内政面でも外交面でも何の功績も残せないまま、ただアメリカ経済が失速して終わる可能性が高いだろう。となれば、まさに“すばらしい新世界”の到来である。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『新版 第4の波』(小学館親書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年1月3・10日号