日本の大手企業が続々とサーモンの養殖事業に参入している。12月5日には、東邦ガスがトラウトサーモンの養殖事業を本格化させ、2025年5、6月には40~60トンの出荷を目指すと発表した。また丸紅は、ノルウェーの水産養殖企業・プロキシマーシーフードとともに、国内最大規模となる約4700トンの養殖サーモンを2025年末までに出荷・販売するという。
これまで日本は、国内におけるサーモン消費量のほとんどを、チリ・ノルウェーなど海外からの輸入に頼ってきた。しかし今、世界的なサーモン需要増で価格が高騰している。円安や輸送費の面からも、国産サーモンに熱視線が集まっているが、そもそもなぜこれまで、日本でサーモンの養殖が進んでいなかったのか。『魚ビジネス』の著者で、おいしい魚の専門家であるながさき一生氏が、「生で食べられるサーモン」躍進の歴史を解説する。
生食サーモンの普及は「ノルウェー」の功績
サーモン──いわゆる「鮭」は、日本人がもっとも好む魚介類だ。水産庁「令和5年度 水産白書」によると、日本人1人の魚介類年間購入量は、1989年時点でイカ・エビ・マグロがベスト3だったが、1994年頃には「鮭」の購入量が急増。以降、需要増の勢いは止まることなく、2004年から現在まで不動の1位となっている。
流通や冷蔵技術の発達によって購入しやすくなった地域が拡大したこともあるが、そもそも生鮭を食べる習慣がなかった日本人が「生」のサーモンを口にするようになった変化は大きい。では、なぜ「生」を食べるようになったのか。ながさき氏は、背景に「ノルウェーの計画的な輸出」があったことを指摘する。
「面積が約38.5万平方キロメートルという日本とほぼ同じ大きさの国土に、人口約540万 人が暮らすノルウェーは、世界で2番目に長い海岸線を有し、漁業は一大産業。水揚げ量の9割以上を世界各国に輸出していて、なかでもサーモンは輸出額の半分を占めるほどです。
今から40年ほど前の平成初期、ノルウェーには海面養殖のアトランティックサーモンを日本に売り込む計画がありました。そこで白羽の矢が立ったのが、高い価値がつく“寿司ネタ”だったのです」(ながさき氏、以下「」内同)
ノルウェーにとって、寿司ネタとしてサーモンを提供できれば、大きなビジネスチャンスになる。熱心な売り込みが重ねられ、ノルウェーから寿司ネタにも使える“生食もできるサーモン”が輸入されるようになり、一気に日本人に「生サーモン」が身近になった。今では、回転寿司店では、サーモンだけで数種類ものメニューが用意されているほどだ。