もともと“サーモン”は生食しなかった
この計画は大成功し、例えばマルハニチロによる「回転寿司に関する消費者実態調査2024」では、「よく食べる寿司ネタ」のランキングで「サーモン」が13年連続1位を記録。とはいえ、元来日本にはサケを生食する文化があまりなかった。マグロやハマチなどは刺身で食べるのに、サケといえば「焼き魚」や「ムニエル」といったイメージが根強かったのだ。
「天然のサケには寄生虫が潜む場合があるためです。しかし、管理が行き届いた養殖ならばその心配は極めて低くなります。それが功を奏して、これまでになかった“寿司ネタ”としてのサーモンが誕生しました」
平成期、チリ・ノルウェーの海面養殖による生食用サーモンの国内流通量は大幅に増加した。水産庁の資料によると、2023年のサケ・マス類の輸入額はチリ・ノルウェーが80%以上を占めている。ながさきさんは「“寿司ネタ”として売り込みに成功した事例が、チリやノルウェーの養殖業を活気づかせる一因となった」と語る。
「“生食もできるサーモン”は大規模に養殖可能で、産業として成長する土壌があったため、PRも精力的に行われました。また、とろっと脂がのっていて、コクもあるといった味が現代日本人の好みにマッチしていたのも大きいでしょう」
様々な要因が重なった結果、日本の食文化に根付いた生サーモン。今後、国内企業の養殖業がより盛んになることで、国産サーモンを手軽に美味しく食べられるようになることにも期待したい。
【プロフィール】
ながさき一生/1984年、新潟県糸魚川市生まれ。株式会社さかなプロダクション代表取締役、東京海洋大学非常勤講師。漁師の家庭で家業を手伝いながら18年間を送る。2007年、東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社で働いた後、同大学院で修士取得。2006年からは魚好きのコミュニティ「さかなの会」を主宰。漁業ドラマ『ファーストペンギン!』では監修も務める。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)。