毛沢東のフルシチョフに対する嫉妬心が大躍進を生んだ
こうして独裁体制を固めた毛沢東は、1957年11月にモスクワで開かれた(社会主義国の)共産党・労働者党会議に参加しました。「ソ連は15年以内にアメリカを追い抜く」というフルシチョフの発言に対抗するかたちで、毛沢東も「中国も15年以内に(当時世界第2位の経済大国であった)イギリスを追い抜く」とぶち上げました。
そうして始まったのが大躍進政策だとすると、まさにフルシチョフに対する嫉妬が口火を切ったと言えそうです。
橋爪:農作物と鉄鋼製品の増産を図ろうとした「大躍進」でいったいどれほどの人びとが亡くなったか、よくわかっていません。5000万人か、もっと多いかもしれない。
中国では大躍進の被害を、「三年大災害」といいます。天候不順による天災で、農作物がとれなかったから餓死者が出た。共産党のせいではないのだ、と。でもどう考えても、共産党が農民から食糧を取り上げて、殺しているんですよ。
峯村:大躍進が始まったのは、毛沢東の個人崇拝政策がいちばんきつく行なわれていた時でもありました。
橋爪:誰に責任があるかと言えば、毛沢東なのは明らかです。でもこのことを、いまなお中国の人びとは直視できていません。日本人も宣伝に惑わされないで、真相を知るべきでしょう。
(シリーズ続く)
※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。