今年スタートする第2次ドナルド・トランプ政権で大きな注目を集めるのが、政府効率化省を率いるイーロン・マスク氏。膨大な連邦政府の予算削減のために、何を実行していくのか。そして、トランプ氏との蜜月関係はいつまで続くのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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マスク氏は「連邦政府の年間予算7兆ドルのうち2兆ドル(約300兆円)を削減する」とぶち上げている。彼はトーマス・エジソンとヘンリー・フォードとベンジャミン・フランクリンを合体したような天才だから、おそらく目標を達成するための“奇策”を次々に提案してくるだろう。
すでにXへの投稿で打ち出したのが「サマータイムの廃止」である。サマータイムは毎年3月の第2日曜日から時計を1時間進め、11月の第1日曜日に1時間戻す制度で、その目的は日照時間を有効利用し、エネルギーを節約することだ。仕事を終えた夕方以降の活動時間が長くなり、消費も拡大するとされている。
だが、この制度には反対も多い。すべての時計をリセットし、航空会社をはじめとする公共交通機関の発着時間を変更しなければならないなど、社会的な負担が大きいからだ。体内時計が環境と同期しなくなることで、健康上の害や交通事故の増加といった影響が生じているという指摘もある。客観的に見てサマータイムは廃止したほうがよいと思うが、そういう思い切った提案は役人にはできない。
あるいは、たとえばマスク氏自身が力を入れている自動運転を一気に推進するかもしれない。交通インフラのコストを削減するために信号をなくしたり、フリーウェイに自動運転区間を設定したりして“全米自動運転化プロジェクト”の10年計画を短期間で作り上げることも彼なら簡単だろう。
マスク氏は経営者だから、目標を立てると閾値(境目となる値)が見え、それを達成するための打ち手を具体的に考える。そのやり方で、政府支出を2兆ドル削ることも十分可能だと思う。