「2期10年」と定められていた中国国家主席の任期制限を撤廃し、異例の3期目に突入した習近平政権。毛沢東以来の「超一強体制」が固まった2022年10月の党大会の1か月後に中国各地で起きたのが、中国の過度なコロナ対策に抗議する「白紙革命」だった。その真のインパクトとは――。中国の歴史や文化、社会に精通する社会学者の橋爪大三郎氏と、元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が読み解く。(両氏の共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)【シリーズの第12回。文中一部敬称略】
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橋爪:いまの習近平体制の経済政策で、毛沢東の大躍進政策に通じるところがありますか。
峯村:収穫量を水増し、誤魔化すような統計の捏造は、最近の中国政府内ではびこっているようです。
習近平政権の2期目までは、中国特有の「算出方法」で統計を出してきました。たとえば失業率に関しては、求職者の母数から大学院への進学希望者を除くなど、西側諸国とは異なる計算方法をしていました。ただ、そのことを織り込んでバイアスを引いて計算し直せば、“真水”が見えてきます。
ところが最近、特に習近平政権の3期目がスタートしたころからは、独自の「算出方法」ですらでっち上げられるようになっているようです。先日意見交換をしたアメリカ政府関係者も「中国経済の実情がまったくつかめなくなった」と嘆いていました。たとえば、経済成長率についても、「国民や市場が動揺しないように5%と言っておけ」と決めているのでしょう。こうした「数字の捏造」は、大躍進政策と重なって見えます。
習近平と毛沢東に共通する「一強の罠」
峯村:そしてもうひとつ、当時の毛沢東と習近平の類似点として「一強の罠」が挙げられます。2015年に出版した拙著『十三億分の一の男─中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)のなかで、現体制の最大のリスクは「強すぎる習近平である」と指摘したのも、まさに毛沢東の大躍進を研究している最中に頭に浮かびました。
習近平が毛沢東的な一強の象徴になったのは、2022年10月の第20回党大会です。党中央から、ほかのライバルは完全に排除され、「超一強体制」が完成しました。当時の毛沢東の時は、周恩来や林彪ら実力のある部下がいましたが、いまの習近平の周りには「イエスマン」しかいません。相対的な党内のパワーでは、毛沢東よりも習近平が上回っていると言ってもいいでしょう。
ところが、この党大会の1か月後に「白紙革命」が起こりました。これは、新型コロナ対策としての過度なロックダウン(都市封鎖)に対して、中国各地で市民が抗議運動を展開したものです。