毛沢東はナンバーワンの座を脅かした彭徳懐を打倒
橋爪:毛沢東は、ナンバーツーは危険だ、という意識をもっていたと思います。
中国の歴代王朝で、ナンバーワンは皇帝。ナンバーツーは皇太子。そして、皇帝と皇太子はよく闘争になるんです。毛沢東愛読の歴史書に、そう書いてある。皇太子が自分の地位をたしかにするには、皇帝に死んでもらうとよい。いや、いっそ殺してしまおう。皇帝はそれを察して思う。ならば先手を打って殺すしかない。こうして皇帝と皇太子は、殺すか殺されるかの関係になるのです。
毛沢東はこのことを熟知していた。だから大躍進を始めたあと、腹心の彭徳懐にナンバーワンの座をひきずり下ろされそうになると、すぐさま逆襲して、本気で彭徳懐を打倒したのです。
峯村:歴代王朝時代からあるトップとナンバーツーによる血みどろの闘争は、中国共産党になっても続いていたわけですね。
橋爪:はい。違いは、王朝の皇帝は血縁で世襲される点です。命を奪い合うことになっても、ナンバーツーは必ず存在しなければなりません。
儒学の古典を開くと、尭、舜、といった伝説の王は、能力のある部下を抜擢して王位を譲っています。これを「禅譲」という。ところが舜の次の禹は、禅譲をする代わりに、王位を自分の子に譲ることにした。以後、世襲になったので、「夏」王朝が誕生します。それ以後、ナンバーワンとナンバーツーが角逐するメカニズムがずっと続くのです。
中国共産党は、世襲ではないので、優秀な党員をトップの後継者に指名しなければなりません。
トップは、後継者を指名するまで絶対的な権力をもっているかもしれないが、指名した途端に後継者(ナンバーツー)がそれに匹敵する権力をもち始める、という力学がはたらきます。その点では、中国共産党でも、権力闘争の同じメカニズムがはたらいている。毛沢東も、鄧小平も、江沢民も、胡錦濤の時代も、これがずっと継続していた。
習近平もこれに倣って、2期目に入る時に後継者を決め、2期目が終われば引退するだろう、とみな予想していました。でも違った。