ナンバーツーを置かない習近平
峯村:習近平体制を見ると、毛沢東が繰り広げたナンバーツーとの権力争いをよく学んでいるとわかります。毛沢東時代の教訓から、「ナンバーツーを置かない」ことを習近平は貫いています。習近平政権2期目には「兄貴分」だった王岐山を国家副主席に据えていました。しかし、これは党内の反発が強い反腐敗キャンペーンという汚れ役をやらせることが目的でした。
だからこそ、反腐敗キャンペーンが一段落すると、王岐山の“档案”(中国共産党が管理するパーソナル・ドキュメント)を出してきて、いくつかの汚職事件をもち出して、実質的に辞任に追い込みます。
そして2023年の全人代で本格的に発足した3期目では、ナンバーツーを置かない体制を築いています。
「集団指導体制」下にあった前の胡錦濤政権までは、常にナンバーツーが置かれていました。毛沢東の言ったとおり、中国共産党の支配は「銃口」がすべてなので、急病や暗殺などでトップに万が一のことがあった場合に備える必要がある。
そこで「党中央軍事委員会副主席」というポストに政治局常務委員を一人置いて軍を握り、「プランB」としてのナンバーツーが制度化されていたのですが、それもなくなった。そうしたナンバーツーがいない状況であることを考えると、習近平が握る権力は、相対的には毛沢東時代をも上回っていると言えると思います。
(シリーズ続く)
※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。