米国での新政権始動を前に大きな注目を集めるのが、日本製鉄によるUSスチール買収計画の成否だ。任期切れ間近のバイデン大統領による「中止命令」を受け、新聞・テレビはここでも悲観的な見方ばかりを報じる。だが、買収計画を主導してきた日鉄・橋本英二会長兼CEO(69)は、トランプ政権下での“逆転”を勝ち取るべく動き出している。昨年11月、橋本会長に独占インタビューしたノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の前編】
バイデン大統領の中止命令が出たことで「買収計画はチェックメイトだ」という見方が大勢だ。トランプ次期大統領も6日、SNSに〈なぜUSスチールを今売ろうとするのか〉と反対の意向を表明し、そうした見方を裏付けている。
だが、日鉄とUSスチールが2つの訴訟を提起したのも同じ6日だった。
訴訟の1つはバイデン大統領らを相手取り、「違法な政治介入があった」として命令の無効を訴える行政訴訟。もう1つは、買収で競り負け、再提案を準備中の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスCEOのゴンカルベス氏、全米鉄鋼労組(USW)のマッコール会長らが結んで日鉄の計画を妨害したとし、違法行為だと訴える民事訴訟だ。
翌日会見した橋本氏は、「(買収で)米国で十分つくれていない鋼材をつくれることになる。安全保障の強化に資する」と強気の姿勢を貫いた。
橋本氏が報道陣の前に姿を見せるのは2024年4月の会長就任後初とあって、この会見には記者が殺到。「海外戦略は練り直しか」「反省点は?」と躓きの言質を取ろうとする質問が重ねられたが、橋本氏は「反省点はない」「諦める理由も必要もない」とはね返した。
逆境にも、前向きな姿勢を保っていられるのはなぜか。橋本氏が見据える逆転のシナリオとはどんなものだろうか。