緊急のステント治療で一命をとりとめた養老氏はその後、2週間に及ぶ入院生活を強いられた。中川医師いわく、入院中の養老氏は「行儀のよい患者」で各種検査を拒むこともなかったそうだ。
だが、胃の内視鏡検査で胃がんリスクを高めるピロリ菌の陽性が判明し、大腸内視鏡検査で将来がん化する恐れがあるポリープが見つかっても、それらに対する治療には首を縦に振らなかった。養老氏は一貫して「将来の病気リスク」を減らす治療には否定的だ。
「心筋梗塞で入院し、半ば強制的に調べられたから大腸ポリープが見つかっただけ。僕は『取らなくていい』と言っているのに、退院から2年後の検査でも、『取るか取らないか』を尋ねられてね。
そもそも調べなければポリープもがんも存在しないわけだし、ピロリ菌の除菌治療も、はたして80歳を過ぎた年寄りがやる必要があるのか。僕ぐらいの歳になれば、がんの2つや3つあっても不思議ではない。ある程度歳を重ねたら、『予防的な治療』は必要ないというのが私の考えです」
そう話す養老氏だが、命に関わる大病の経験後は、診察と検査のため定期的に「大嫌いな病院」にも通うようになった。さらに自身にがんが発覚、治療を行なう過程で、これまでの医療に対する考え方に若干の変化が生じ始めたようだ。
■全文公開:養老孟司氏「がんの壁」に向き合う心構え 肺がん発覚から抗がん剤、放射線治療を経て生還するまでを語る
※週刊ポスト2025年1月31日号