現在、年収105万円の人であれば所得税・住民税を差し引かれた手取りは103万9500円。しかし、第3号を外れて厚生年金に加入すると、給料から年金・健康保険・介護保険の保険料を天引きされ、手取りは88万7500円に減ってしまう(社会保険料控除が適用されるから所得税はゼロになる)。差し引き約15万円もの減収だ。
厚生年金に加入したうえで元の手取り約104万円を稼ぐには、年収を120万円以上にしなければならない。
それゆえこれまでは「手取りが減るくらいなら106万円を超えないように働こう」と考える人が多く、「106万円の壁」と呼ばれてきた。
年金改正でその壁が撤廃されると、パート勤めの第3号被保険者は「勤務時間を20時間未満に減らす」か、「夫の第3号を外れて自分の給料から厚生年金保険料を支払う」かの選択を迫られる。厚労省の推計では、対象者は200万人にのぼる。
この局面で、「もっと働けるけど、仕方がないから勤務を週20時間未満に減らそう」と考える選択はもったいない。
社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「パートなど短時間労働者の厚生年金加入には利点も大きい。国民年金より保険料の自己負担が安く、受け取れる年金は多くなるという二重のメリットがあるからです。手取りが減る分についても、政府は2023年からパートなどの従業員が厚生年金に加入しても手取りが減らないように追加支給をした企業に助成金を出す『支援パッケージ』を提供しています。そうした手取り減を補填する支援が利用できる状況のなか、今回の改正は第3号にとどまるか、厚生年金に加入して将来の年金を増やすのか、夫婦の年金プランを改めて考え直す機会だと言えます」
政府の「年収の壁・支援パッケージ」(社会保険適用時処遇改善コース)は、前掲図の年収110万円のケースなら、パート従業員が厚生年金加入で負担する社会保険料約16.5万円を企業が手当として支給して補填すれば、国が企業に1人20万円を2年間助成する仕組みだ。期限は2026年3月末までとなっている(その後は新たな助成が検討されている)。
厚生年金に加入して働く選択をする場合、この政府の助成がある期間に加入するのが最善の道と言えそうだ。
■後編記事:【「106万円の壁」撤廃時の保険料と受給額シミュレーション】パート妻の厚生年金加入で得になる3つのパターンを解説、保険料は少なく受給額は多くなる“逆転現象”も
※週刊ポスト2025年1月31日号