日本製鉄によるUSスチールの買収計画が、トランプ政権の誕生でどのような展開となるか注目を集めている。1月14日には、USスチール買収で日鉄と競合する米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのCEOが「日本は邪悪だ」などと発言。なぜこのような反発が起きるのか。日鉄の橋本英二会長兼CEO(69)に独占インタビューしたノンフィクション作家の広野真嗣氏が、米国に渦巻く反日感情の正体について解説する。
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かなり度の強そうな黒縁メガネを揺らし、星条旗を握りしめながら、その男――クリーブランド・クリフスのロレンソ・ゴンカルベスCEO(66)は、口角泡を飛ばした。
「日本よ、注意しろ! あんたらは自分が何者か理解していない、1945年から学んでいない。我われがいかに優れていて、いかに慈悲深く、いかに寛大で寛容か学んでいない」
「我われはアメリカ合衆国だ」とも啖呵を切ったゴンカルベス氏だが、実は1990年代後半にブラジルからアメリカに移住し、経営者としてのし上がった野心家だ。M&Aを重ねることで規模を拡大し、“鉄鋼界のイーロン・マスク”の異名も持つ。批判的なアナリストを「最悪だ、親の恥だ」と罵倒したり、テレビのリポーターの発言を遮って名前の発音を繰り返し訂正したりする、アクの強い言動があるからだ。今回は口撃の矛先を日鉄に向けた。「中国は悪だ。邪悪で恐ろしい。しかし日本のほうがひどい」というのである。