「自分は価値ある存在だ」という欲求に寄り添う
重要なのは、その体験が消費者によって他者にシェアされた際に「どのように見られるか」という視点まで考慮した上で設計されていることである。自らの価値を実感できるように、体験の各要素をMX起点で緻密にデザインする必要がある。その結果、消費行動は単純な取引という行為から、消費者自身が「自分は特別な存在だ」と感じられる自己表現の場へと進化を遂げるのだ。
これからの企業には、消費者に対してMXを演出するための舞台を提供し、その舞台の上で自分らしく輝き、充実感を味わえるような体験を意識的にデザインすることが求められるようになるだろう。
このように、MXを活用して「マウント消費」を促進することは、人々に対して新たな価値を提供するための極めて有効な手段となる可能性がある。「自分は価値ある存在だ」と感じたいという欲求は、テクノロジーがどれほど進化しようとも消え去ることのない人間に備わった根源的な本能である。
だからこそ、企業はそれに寄り添い、満たすための体験を丹念に設計する必要がある。そして、「自分の価値を強く実感できる瞬間」を提供することで、これまでにない消費の形を開拓する旗手となるべきなのだ。それこそが、これからの企業が目指すべき使命であり、未来を切り拓くための原動力となるだろう。
※勝木健太・著『「マウント消費」の経済学』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
勝木健太(かつき・けんた)/1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティングおよび監査法人トーマツを経て、経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたって国内大手消費財メーカー向けに新規事業・デジタルマーケティング関連プロジェクトに参画した後、2019年6月に株式会社And Technologiesを創業。2021年12月に株式会社みらいワークス(東証グロース:6563)に会社売却(M&A)し、執行役員・リード獲得DX事業部 部長に就任。2年間の任期満了後、退任。執筆協力実績として『未来市場 2019-2028』(日経BP社)『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)、企画・プロデュース実績として『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)がある。