モノやコトの需要が飽和しつつある日本経済において、「マウント需要」(=「他者よりも優れている」優越感を得たいという欲求)を拡大することが、この国を再び経済大国へと押し上げるカギとなる。では、「マウント需要」を促進させるためにはどうすれば良いのか。そのポイントを最新刊『「マウント消費」の経済学』が注目の文筆家・勝木健太氏が解説する(以下、『「マウント消費」の経済学』より抜粋・再構成)。
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「マウント需要」を拡大するために鍵となるのが、「マウンティングエクスペリエンス(MX)」という私が提唱する新たな概念である。
これは特別な体験を提供するだけにとどまらず、それを通じて消費者が他者に対する優越感を実感できるように設計された体験のことを指す。言い換えれば、「自分は特別な存在である」と深く感じられる物語性や価値を織り込んだシナリオや演出を緻密に構築することである。
たとえば、高級ホテル業界では、豪華な部屋や優れたサービスを提供するだけではもはや十分とは言えない。ラグジュアリーな内装やホスピタリティは基本条件に過ぎず、それを「他者よりも一歩先を行く体験」へと昇華させるための工夫が求められている。
ゲスト限定のラウンジでの特別なワインテイスティングや秘境のようなプライベートスポットでの特別イベントなどは、宿泊客を喜ばせるためだけの演出ではない。これらは、SNSでシェアされることで「こんな特別な体験をしたのは私だけ」という優越感を感じさせるための仕掛けとして機能し、ゲストにとって忘れられない独自の価値を創出しているのである。
MXの可能性は、デジタル空間においても急速に拡大している。オンラインやデジタルアート、さらにはメタバース内での限定イベントなど、物理的な制約を克服し、これまで存在しなかった形の体験が次々と登場する中で、それらを「他者との差別化を実感できる特別な体験」へと仕立て上げることの重要性が高まっている。
このようなデジタル領域は現代の経済社会における新たなフロンティアであり、企業が次世代の競争力を構築するために注力すべき重要な領域と言える。