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中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

フジテレビ「ACのCMだらけ状態」はいつまで続くのか? 簡単に通常CMを再開できない広告主側のジレンマ、局に補償を求める動きも拡大するか

フジテレビで「決めつけ刑事」のCMが流れる皮肉(ACジャパンのホームページより)

フジテレビで「決めつけ刑事」のCMが流れる皮肉(ACジャパンのホームページより)

復活させる時は、誰もが納得するタイミングでなければならない

 さて今回のフジテレビの件ですが、最初にトヨタや日本生命などの大企業がACのCMに差し替えたことで、他の企業も追随していった印象です。では、再開タイミングはどうなるか。通常CMを復活させるタイミングを見誤れば、抗議の電話が来たり、ネットでも批判が書き込まれたりするかもしれません。だからこそ再開時には「第1号」にはなりたくないと考える企業も出てくるでしょう。

 ACのCMはすでに広告主がお金を払っている枠を“差し替え”するため、現状ではフジテレビの広告収入にダメージはありません。別にテレビ局側が「ACにしますね」と言うわけではない。あくまでも広告主が自社CMを流すか、ACに差し替えるかを判断しているのです。通常は不祥事を起こした企業が自衛のために差し替えるケースが多いのですが、今回は、コンプライアンス的な問題が浮上しているにもかかわらずその全容が解明されていないフジテレビへの抗議の意味と、「どうしてこんな局の番組にCMを提供しているんだ!」と視聴者から抗議が来るリスクを踏まえて、各社差し替えたのでしょう。

 しかし、そうはいっても、延々とACのCMを流し続けると今度は広告主企業の株主から「宣伝もしていない広告枠を買って何をしておるのだ!」と怒りを買うかもしれない。広告主側もそんなジレンマを抱えています。そうしたことから、ライオンに関する報道のように「CM差し替えで生じた損失について補償を求めていく方針」を打ち出す企業も出てくるのでしょう。これが他の広告主にも拡大していけば、大変なことになります。

 事態の進展次第ではありますが、3月でクールが終わることからそのタイミングで通常CMを復活させる企業もあれば、それまでの費用対効果を考えて「CMは不要なのでは?」と考える企業も出てくるかもしれない。CM契約状況は各社異なるものですが、3月と4月は新生活キャンペーン的なものが多いため、半年~1年前ぐらいに、すでに1~3月クールと4~6月クールの枠を押さえている企業もあると思われます。

 現状、“世間の空気感”として、フジからCMを引き上げてACに差し替えたのは「英断」と扱われている印象です。だからこそ復活させる時は、誰もが納得するタイミングでなければならない。事態がなかなか動かなければ各社慎重になるでしょうし、担当者はヒリヒリする判断を迫られることとなります。そして、4月以降のフジテレビの減収がいかほどになるか、も注目されます。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。

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