北朝鮮が選挙管理委員会のシステムをハッキングして投票数を改竄したと尹氏が疑っているといった報道があるが、厳密にはニュアンスが少し異なる。談話で尹氏は、北朝鮮から選管を含む政府機関へのハッキング攻撃が過去に何度もあり、これを認識した韓国の情報機関・国家情報院が選管に調査協力を依頼したが、憲法機関であることを理由に拒否されたため、戒厳を宣言して調べようとしたと語っている。
北朝鮮のサイバー攻撃部隊が世界中で暴れ回っているのは周知の事実である。金融機関へのハッキングの他、仮想通貨の盗み出しやランサムウェアによる身代金要求など、さまざまな事件に関与しているとみられている。韓国警察は2016年6月に、北朝鮮のサイバー攻撃部隊「180部隊」が、160に及ぶ韓国の企業や政府機関のコンピュータ14万台に侵入し、大規模サイバー攻撃を仕掛けるためのコードを植え付けたと発表した。
近年の北朝鮮の工作部隊による韓国国内での「情報操作」の実態も明らかになっている。読売新聞オンライン2025年1月9日付の記事によると、北朝鮮のスパイとして有罪判決を受けた労組幹部らの裁判(2024年11月・水原地裁)の判決文などから、「(韓国で)反日世論をあおり、日韓対立を取り返しがつかない状況に追い込め。核テロ行為と断罪する情報を集中的に流せ」(福島第一原発の処理水放出が始まった翌月の2021年5月)といった本国からの指令が毎月複数回あったことが判明したという。
「北朝鮮がハッキングで票を操作」したかどうかは不明だが、サイバー攻撃やスパイ活動の実態がある以上、北朝鮮による工作の疑いについて簡単に「陰謀論だ」と片付けることはできない。
尹大統領を逮捕した「いわくつきの司法機関」
戒厳解除後には、「尹氏を警護する大統領警護庁」と、「内乱罪の容疑で尹氏の身柄を拘束しようとする高位公務員犯罪捜査処(以下、公捜処)と警察」が、同じ国の機関であるにも関わらず、対決姿勢を示すという不可解な状況も生じた。なぜこんな事態になったのか。
「公捜処が極めて強引な捜査をしているからです。そもそも公捜処は大統領や国会議長など高位公職者の不正・腐敗を捜査する機関ではあるのですが、『内乱』に関する捜査権限はありません。また、公捜処法では、公捜処の捜査を担当する裁判所はソウル中央地裁になっているのに、ソウル西部地裁に逮捕状を申請しています。
さらに、大統領官邸は軍事施設保護地域に該当し、警護責任者の許可がなければ立ち入りできませんが、尹氏を拘束した当日、公捜処は警護を担当している陸軍55警備団長の名で出入許可公文書を偽造して官邸に侵入している。何重にも法を犯して捜査を進めているのです」(崔氏)