公捜処が法を犯してまで尹氏の身柄を拘束しようとしたのはなぜか。『交わらないから面白い日韓の常識』(祥伝社新書)の著者で、元朝日新聞ソウル特派員の前川恵司氏はこう言う。
「公捜処は、かつて尹氏が検事総長として曹国(チョ・グク)元法相の汚職を追及したことで、危機感をもった文在寅大統領(当時)が検察を捜査から排除するために強引に設置した、いわくつきの司法機関です。韓国では、大統領になったら前政権の残滓を一掃するのが『伝統』ですが、尹氏は自分が退任後の報復を恐れたのでしょうか、文氏をはじめとする前政権の要人を断罪せず、公捜処もそのまま残した。その公捜処に断罪されたわけです。
今回、公捜処が本来の管轄であるソウル中央地裁ではなく、ソウル西部地裁に逮捕状を申請したのは、中央地裁では却下される可能性があったから。西部地裁では、『私たちの法律研究会』(韓国語で「ウリ法研」)という左派の裁判官グループがはびこっていて、尹氏を追い詰めるためなら逮捕状を出すと判断したからだと、尹支持派は怒っています。実際に1月24日、中央地裁は尹氏の拘置延長を認めませんでした。そのため、左派の思惑とは裏腹に、検察は尹氏の取り調べができないまま起訴する形になりました。司法の場でもそうした混乱が起きています」(前川氏)
公捜処が執拗なまでに大統領を拘束しようとしている裏には、韓国で政治勢力を二分する保守派=現政権派と左派=前政権派の対立構図があるという見立てである。
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取材・文/清水典之(フリーライター)