閉じる ×
住まい・不動産
「空き家問題」の現在地

【不要な土地を国に引き取ってもらう】相続登記の義務化とセットで創設された相続土地国庫帰属制度の詳細解説、「ハードルが高い」との事前予想を覆す運用の現状

 また国庫に帰属できる相続財産は、この制度が開始された2023年4月27日以前の土地も対象になります。これは、多くの人がかつて相続し、自分にとって価値がないと思われる土地を国に引き取ってもらうチャンスが到来したとも言えます。

 ただし、申請や審査にあたって要求されている条件は意外にハードルが高そうです。田畑や山林、地方に残された先祖伝来の土地などは、権利関係が複雑で登記もされていない、境界が定まっていない、地役権(通行など一定の目的のために他人の土地を利用する権利)や入会権(山野、漁場などを一定の住民が利用できる権利)といった権利が付帯する、など解決しなければならない問題が多数あるためです。

 都市市街地であれば、こうした問題はあまりないかもしれませんが、家の解体費用に加えて、土壌汚染や地中埋設物などの処理や撤去などに多額の費用がかかる恐れもあります。またそれらの費用を負担したうえで、さらに多額の負担金を支払わなければならないことを考えると、更地として売るほうがよい、ということにもなりそうです。

 さてこの制度の運用状況を見てみましょう。2024年7月末現在で申請数は延べ2481件。内訳は農用地930件、宅地889件、山林391件、その他271件です。このうち国庫帰属件数は667件。内訳は農用地203件、宅地272件、山林20件、その他172件です。却下件数は11件。理由は境界が確定できない、通路用地があるなどです。

 また不承認だったものが30件。崖地や工作物の存在、通行権などの設定が理由です。また売却や活用が決まる、途中であきらめるなどの取り下げが333件でした。

 当初はあまりにハードルが高いのではと思われた制度ですが、宅地では帰属率も高く、まずまずワークしていると言えましょう。

 相続してしまった土地の扱いに一定の出口が用意された反面、出口要件を満たさない土地については、登記を義務づけ、固定資産税を徴収し、登記しない者に対しては処罰する。この数年の制度設置や各種法改正で国や自治体の基本的な姿勢が明確になってきたと言えます。

 空き家の増加は、国や自治体からの取り締まりや規制の強化につながります。この考え方の根底には、空き家が社会にとっての困りもの、厄介ものという価値観があります。ただ、将来を見据えると、実はこれから首都圏などの大都市圏で発生する大量相続が、空き家活用等を通じて住宅マーケットを大いに活性化させることが期待されています。

※牧野知弘著『新・空き家問題──2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)より、一部抜粋して再構成

【プロフィール】
牧野知弘(まきの・ともひろ)/東京大学経済学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て、三井不動産に勤務。その後、J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在は、オラガ総研代表取締役としてホテルなどの不動産事業プロデュースを展開している。著書に『不動産の未来──マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新書)、『負動産地獄──その相続は重荷です』(文春新書)、『家が買えない──高額化する住まい 商品化する暮らし』(ハヤカワ新書)、『2030年の東京』(河合雅司氏との共著)『空き家問題』『なぜマンションは高騰しているのか』(いずれも祥伝社新書)など。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。