石川県が整備していた被災者向けの仮設住宅は、地震から約1年後の昨年12月にようやく完成した。石川県の馳浩知事は昨年末の仕事納めで「来年は『復興元年』として新たなまちづくりに挑む市や町に寄り添って支援をしていく」と挨拶したが、復興元年は昨年だったはずであり、県のトップがそういう認識だからスピード感がないのだ。
企業は災害や事故などが起きた時に備え、事業への影響を最小限にとどめるための方法や行動手順を定めたコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を策定しているが、国や地方自治体にはそういうものがないから、災害対応が場当たり的になって後手後手に回ってしまうのである。
一方、海外では国と地方自治体の役割分担がはっきりしていてコンティンジェンシープランも確立しているので、復旧・復興が非常に速い。たとえば、昨年4月に起きた台湾・花蓮地震の時は、1日で仮設住宅ができ、道路の復旧も始まった。仮設住宅は市、道路は県と役割が決まっていたからである。今年1月に発生した中国・チベット自治区の地震でも、10万人を超える被災者が2日間で仮設住宅に収容された。日本の災害対応は、台湾や中国よりも大きく劣っているのだ。
これを是正するためには、防災庁ではなく最初から防災省を設置するか、国交省の中に防災・災害対応の恒常的な部署を作らねばならない。そこに自衛隊、警察、消防、医療だけでなく土木建設会社などの民間企業も含めて各分野の専門的な知識、技術、経験を持っている人たちのリソースを集約し、災害が起きたらすぐに投入できる“工兵部隊”も整備すべきだと思う。また、国、都道府県、市町村の役割分担もはっきりと定めておかねばならない。
そこまでいかなければ、10年に2~3回の頻度で大災害が発生している日本で国民の命や財産を守ることはできないと思うのだ。予算を2倍にするくらいの発想しかない石破首相に命を預けるわけにはいかない、と施政方針演説を聞いて痛感した次第である。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2024-2025』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年2月14・21日号
『新版 第4の波』(小学館親書)