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伊藤塾・伊藤真塾長が「訴訟弁護士としての活動」や「SNS発信」を捨てた理由 集中するために必要な「割り切り」の考え方、複数の作業を進めるには「切り換え」が大切

同時に仕事をこなしているよう見えても実はそうではない?(写真:イメージマート)

同時に仕事をこなしているよう見えても実はそうではない?(写真:イメージマート)

「考える力」は、しばしば抽象的な概念として語られ、その具体的な育て方や実践方法は明確に示されることが少ないものだ。一見すると当たり前に思える「考える」の精度を上げるために着目したいことが「集中力」と「取捨選択」だという。司法試験をはじめとする法律資格試験指導校「伊藤塾」を主宰し、40年以上にわたって、法律家や公務員を目指す人たちや法律の世界で活躍する人たちと関わってきた伊藤真さんの著書『考える練習』より一部抜粋、再構成して紹介する。

「あえてやらないこと」をリストアップする

 集中するという意味で、私が「捨てたもの」はいろいろある。

 ひとつは訴訟弁護士としての活動である。最近、一人一票問題など、いろいろなことで裁判で戦う必要が出てきたので、私は再び弁護士資格をとったが、少し前まで、弁護士登録をしていなかった。

 それは、法律家を育てること、憲法を広めることという自分の使命を果たすために、いわゆる弁護士活動に時間を使うのはやめようと思ったからである。

 弁護士は一般の人たちや会社の相談にのって、法廷に立ち、訴訟を行う。そのためには訴状や答弁書を作成したり、訴訟方針を決めたり、ぼうだいな準備をしなければならない。またお客さんや顧問先を増やすための営業活動も必要だ。そうしたことに時間を使わずに、法律家を育てる教育の仕事に集中したいと思ったからである。

 やめたことはほかにもある。会社では、部下が育ってきたので「仕事をまかせる」ようにしている。以前は、何から何まで自分でやらなければ気がすまなかった。毎年、合格者を集めて行う船上パーティも、船の手配から料理の選定、来賓の方たちの席順や紹介の順序まで、すべてチェックしたりしていたのである。よくぞ、そんなことまでやっていたものだ、と我ながらあきれてしまう。

 最近は社員にまかせ、私がよけいなことをしないほうがもっと社員も育ってくれるし、うまくいくことがわかったので、まかせるようになった。心配な面もあるが、うまくいったときはほめ、失敗したときは、なぜそうなったのか一緒に原因を考えて、次に生かせばいい。

 実際、思い切ってまかせてみたら、ひじょうに楽になった。その分、私は別のことを考えたり、集中したりできるようになった。会社で地位があがるにつれ、プレーヤーからマネジメントにシフトしていく過程はビジネスパーソンにはおなじみのことである。

 また私は、SNSを使った発信もやらないと決めた。以前、私はツイッター(X)をやっていて、まめに発信していた。フォロワーからコメントが来ると、ちゃんと答えてもいた。だが中には議論ができない人や荒らすことだけが目的の人もいて、その対応に費やす時間がムダだと感じるようになった。

 だからある時期、きっぱりやめてしまった。きっといろいろ言われているのだろうけれど、もう言われっぱなしでいいや、と割り切ってしまったのだ。そしてそこに費やしていた時間を、意見が違っても対等な立場で知的な会話ができる人との議論や、別のことを考えるために使おうと決めたら、あとはずいぶん楽になった。

 もちろんSNSの発信手段を持っているといろいろなメリットはあるだろうが、デメリットも大きい。今の私にとっては、時間の使い方としてあまり効果的ではないと思ったので、あえてSNSでの発信は切り捨てるという選択をしたわけだ。そのかわり、私の発信は本を書いたり、講演をしたりするという方法に優先順位をつけている。

 集中して考えをより深めていくためには、集中を阻害するものを探し出して、それを整理し、割り切ることが大切だと思っている。

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