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農林水産省が米農家の反対を押し切ってまで「備蓄米放出」に踏み切った“表沙汰にしにくい理由”

政府備蓄米の放出について発表する江藤拓・農林水産相(時事通信フォト)

政府備蓄米の放出について発表する江藤拓・農林水産相(時事通信フォト)

 米価格の高騰を受けて、農林水産省は21万トンの備蓄米放出に踏み切ると発表した。これによって米価が落ち着けば消費者にとってはありがたい話だろうが、複雑な立場に置かれているのが米農家だ。昨今の物価高の中でも米価はなかなか上がらず、一方で肥料や燃料費は高騰して農家の収益を圧迫していた。今後、米価が下がれば、農家の収入源にもつながりかねない。米農家からは備蓄米放出に反対する声も出ている。そうした事情は当然、農水省も理解しているはずだが、なぜ今回、備蓄米放出に踏み切ったのか。そこには表沙汰にはしにくい理由があるという──。イトモス研究所所長・小倉健一氏がレポートする。

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 高騰する米価を抑えるための備蓄米の放出について、江藤拓農林水産相は2月14日、放出量を21万トンにすると表明した。

 農林水産省が今回の備蓄米放出を自発的に決定したとは考えにくい。これまでの江藤大臣の発言からもわかるように、生産者の間では、米価の上昇によって、ようやくコストを賄える水準になり、将来の見通しが明るくなったと評価されていたのだから。

 備蓄米を市場に供給することは、農家にとって望ましい施策ではない。米農家は、米価上昇を歓迎しており、政府が備蓄米を放出することには一貫して抵抗を示してきた。それにもかかわらず、農林水産省が備蓄米の放出に踏み切った背景には何があるのだろうか。

 筆者に対して、農水省関係者が明かしたのは、「輸入米」の存在である。

「関税がプラスされた輸入米の価格は、高騰する日本国内の米価に接近しつつあります。現在の農林水産省の基本方針は、自給率を高めることを半ば諦め、『米だけは自給率100%を維持する』という点にあります。この前提が崩れる事態を避けるため、備蓄米の放出を決断せざるを得なかったのです」(同関係者)

次のページ:日本の米の価格が上がると関税の効果が弱くなる仕組み

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