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農林水産省が米農家の反対を押し切ってまで「備蓄米放出」に踏み切った“表沙汰にしにくい理由”

店頭ではコメ価格高騰している(写真/AFP=時事)

店頭ではコメ価格高騰している(写真/AFP=時事)

日本の米の価格が上がると関税の効果が弱くなる仕組み

 こうした理由が表沙汰になっていないのは、自由貿易を標榜する日本にとって不都合があるためだ。

 日本の米輸入政策は、長らく政府の管理下に置かれ、厳格な規制のもとで運用されてきた。1993年のウルグアイ・ラウンド合意に基づき、1995年からミニマム・アクセス米(一定量を海外から購入する約束のある米のこと)の輸入が義務化され、1999年には関税化された。

 政府は当初、関税率を778%と公表し、「100円の外国産米は877円になる」と説明していた。しかし、実際の関税負担は異なる仕組みで運用されていた。財務省の実行関税率表によれば、米にかかる関税は1キロ当たり341円の従量税のみである。関税率が778%に見えたのは、基準となる国際価格が低かったためだ。例えば、1キロ500円の輸入米の関税を778%で計算すると3940円となるが、実際には341円(税率68%)にとどまる。

 この制度の特徴は、関税が「割合(%)」ではなく「決まった金額」で設定されている点にある。物の値段が上がると、日本の米の価格も上がり、関税の負担が相対的に軽くなる仕組みになっている。日本の米の価格がさらに上がれば、外国からの米との価格の差が縮まり、関税の効果が弱くなる。

 農林水産省としては、外国から入ってくる米が増えすぎて、日本の米作り存続の脅威となることは避けたい。そこで、国が持っている米を市場に出し、価格を抑えようとする「最後の手段」を取ることになった。しかし、一時的に米を放出しても、根本的な問題を解決することはできない。当面、日本のインフレ基調は続くと予想されており、お米の値段も当然上がっていくからだ。

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