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ビジネス

農林水産省が米農家の反対を押し切ってまで「備蓄米放出」に踏み切った“表沙汰にしにくい理由”

農水省の最大の問題はカロリーベースで自給率を計算している点

『Global Food Security』(2023年)所収の、世界276の国と地域を対象に、食料自給率と生産多様性を分析した研究『潜在的自給率と多様性の世界的分析が示す多様な供給リスク』では、合計2479の食品項目(陸上215、水産2264)をリスト化し、それぞれの栄養成分を統合。それぞれの国のリスクを指摘している。日本は本論文において「低自給国」と最下層に分類されている。国内生産では9種類の栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンA、葉酸、鉄、亜鉛、カルシウム、果物・野菜の摂取量)のうち0~2種類しか満たせず、ほとんどの栄養素を輸入に依存している。

 農林水産省の政策の最大の問題は、カロリーベースで自給率を計算している点にある。世界的な研究では、食料安全保障の指標として栄養素の充足を重視する方向に移行している。それにもかかわらず、日本の自給率の計算方法は、カロリーに偏重し、栄養バランスの観点を無視している。特に、カロリーベースで計算すると、米の比重が大きくなるため、米の生産と消費を優先する政策が正当化される。しかし、ビタミンAや鉄分などの微量栄養素が不足していては、食料安全保障は実現しない。政府は、単にカロリーを確保するのではなく、栄養バランスの取れた食料供給を目指すべきである。

 今、農林水産省は、米価が上がることを喜ぶのではなく、「お米の自給率100%を守るために輸入米との価格競争をなんとしても回避しなければならない」という、訳のわからない論理で動いている。日本のお米の品質は高いのだから、外国産米と徹底的に戦えばいいし、輸出もどんどん増やしていくべきだろう。お米を多く作らせず、少なくも作らせないような政策を続けるから、農家が疲弊していくのだ。

 そもそもお米の自給率は100%といっても、お米をつくるための耕作機は、100%輸入に頼っているガソリン(石油)で動き、お米の肥料も輸入の割合が大きい。実態は、自給率100%でもなんでもないものを必死で守ろうとする農林水産省の姿勢は、滑稽ですらある。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

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