トカイナカでどのように自給して暮らせるか、「1人社会実験」を行なった森永卓郎さん
1年3か月にわたるがん闘病の末、1月28日に逝去した経済アナリストの森永卓郎さん(享年67)。生前、数々の著書を上梓した森永さんだが、未発表の原稿があった。
本誌・週刊ポストが入手したその遺稿には、老後の生き方、楽しみ方についての深い洞察が綴られていた。本記事では、森永さんが書き遺した「エンターテイメントの自給自足」について紹介する。
トカイナカに移住すれば「エンタメ」も自給できる
森永さんはかねてより、都会と田舎の中間「トカイナカ」への移住を勧めてきた。大都市中心部から数十~100キロほど離れて暮らせば、豊かな自然と安い物価を享受できるという。
森永さん自身、都心まで電車を乗り継ぎ、ドアツードアで90分ほどかかる埼玉県所沢市の西部に40年住み続けた。
「生活するうえで最大のメリットは住宅価格が安いことだ。私の家は駅から少し離れているので、地価は坪当たり50万円ほどである。都心と比べたら10分の1の値段だ」
自分で食べるものは、できる限り自分の手で作ることも大切だ。コロナ禍の2020年、森永さんはトカイナカでどのように自給して暮らせるか、「1人社会実験」を行なった。
森永さんの妻が近所の農家から借りた1アール(100平米)の耕作放棄地を耕し、トマトやナス、ピーマン、キャベツなど20種類以上の野菜を育てたのだ。
その結果、農業は食費削減だけでなく、ブルシット・ジョブとは異なる「人間的な喜び」を得られることがわかったという。
「実際に農業をやっていれば、それがいかに知的な仕事かということが自ずとわかる。大自然が相手だから、思うようにはならない。雨が襲い、風が襲い、病気が襲ってくる。虫や鳥や動物も襲ってくる。それらと闘うために柔軟に作戦を変更し、作物を守っていく。
さまざまな努力を重ねても、予定通り収穫まで結びつけることができる確率は、私の場合、5割程度でしかない。しかし、だからこそ、無事収穫に至ったときの喜びは、何ものにも代えがたいほど大きい」