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田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国製の人型ロボット、生放送で高度な歌謡ダンス披露して即売り切れに 中国企業による量産化スタートで活性化する“ロボット市場”の未来

高額な人型ロボットが売り切れの人気に(宇樹科技ホームページより)

高額な人型ロボットが売り切れの人気に(宇樹科技ホームページより)

 中国では毎年、旧暦の大晦日から正月にかけて、『春節聯歓晩会』(通称・春晩)が放送される。日本でいう、NHK紅白歌合戦のような番組で、流行歌や伝統音楽、漫才や吉本新喜劇を若干上品にしたような舞台劇など盛りだくさんの内容で楽しまれている。そこで今年最も注目されたのは、中国伝統の歌謡ダンスだった。

 16人の少女たちに交じって、真っ赤な綿入れちゃんちゃんこを着た16台の人型ロボットが軽快に踊りながら、ハンカチを回した状態で投げ上げそれをキャッチするといった難しい技を披露。古くから伝わる伝承芸能に最先端技術を象徴する人型ロボットをコラボさせる斬新な企画が視聴者に強い印象を与えた。

 共産党幹部から一般庶民まで、多くの視聴者が見守る生放送でのライブ演技だ。ロボットを開発した宇樹科技は絶対に失敗できない状況にあったはずだ。逆に言えば、失敗しないのはもちろん、16台のロボットに一糸乱れず完璧な演技をさせられる自信があったからこそ、このパフォーマンスを実施したのであろう。

 宇樹科技は2月12日、京東オンラインにおいて今回のパフォーマンスに使ったG1ロボット、ハイグレードモデルとなるH1ロボットの販売を開始した。価格はG1ロボットで9万9000元(208万円、1元=21円)、H1ロボットで65万元(1365万円)。いずれも1日足らずで売り切れとなっている。犬型(四足歩行)ロボットではグローバルシェアの7割を占める同社だが、人型ロボットでも本格的な商業化を開始した。

 購入者は何に使うのか。G1ロボットでは、百貨店、レストランなどの新装開店時のパフォーマンスや、結婚式場での司会、そのほか企業の宣伝活動などに使われることが多いようだ。中には、ネットに広告を掲載、1日当たり5000元(10万5000円)~1万5000元(31万5000円)のリース料を取り、貸し出すユーザーもいる。

中国で量産化が始まれば値段が下がるのは明らか

 H1ロボットは建築資材が散らばる足元の悪い場所を行ったり来たりすることができ、25cm程度の段差なら難なく降りることができる。人間が腕を引っ張ったり、蹴とばしたりしても、倒れないだけの安定性があり、30kg程度のレンガを運ぶことができる。さらに、バク宙ができるほど運動能力が高い。ホームページの紹介ビデオを見る限り、宇樹科技は過酷な作業現場での使用を想定しているようだ。

 アナリストや消息筋の話ではあるが、家事用ロボットの開発に関してMetaと業務提携する可能性もありそうだ。MetaはMR(複合現実)や大規模言語モデル(Liama)などで高い技術を持っている。提携が実現すれば、グローバル展開の道筋も見えてくるだろう。

 現在の最先端ロボットは、人類の上位数%に入るレベルの頭脳とバク宙ができるほどの高い運動能力を持った肉体を獲得できるところまで進化している。労働者の代用として商業ベースに乗せられるレベルまで品質が上がってきているのではないか。価格について、現段階では安いとは言えないが、中国が得意とする量産化が始まった以上、急速に値段が下がってくるのは明らかだろう。

 北京日報(2月26日)に掲載された専門家予想によると、人型ロボットによる工場現場での利用は2024年には既に一部で始まっており、2027年までに本格的な普及期に入る見通しだ。また、家事用ロボットなど消費者向けでは2028~2031年の間に普及が始まる。2035年にはグローバルの人型ロボットの生産台数は140万台に達し、市場規模は380億ドル(5兆7000億円、1ドル=150円)に達するという。

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