“ミスター消費税”こと新川浩嗣・事務次官(時事通信フォト)
30年で13%しか上昇していない政府の物価統計を援用
ところが、自民党は別の数字をあげて壁の引き上げを123万円に値切った。「財務省は最低賃金ではなく、『物価上昇率』で判断するべきだという意見だった」(自民党政調関係者)からだ。
事実、自民党税制調査会のインナーで財務省OBでもある小林鷹之・元経済安保相はネット番組でこう説明した。
「(国民民主の)178万円というのは30年前と最低賃金を比較した数字。自民党がたどり着いたのは123万円。なぜ123万円かをざっくり言うと、30年間で物価は1割上がっているが、生活必需品は2割上がっている。(それに合わせて)基礎控除を2割上げれば123万円になる」
政府の物価統計では消費者物価(総合指数)は30年で13%しか上昇していない。生活必需品の指標とされる「基礎的支出項目」は24%アップだ。“物価はそんなに上がっていないから、課税最低限も少しだけ上げればいい”という主張である。
この隔たりにより、玉木氏ら国民民主党と“ラスボス”と称された自民党の宮沢洋一・税制調査会長らがバトルを展開し、玉木氏の敗北宣言での決着となったのだ。
103万円の壁は最終的に予算修正で160万円に引き上げられたものの、所得制限がついたため減税額は年収300万円の人も年収500万円の人もわずか年2万円。しかも2年間の限定だ。こんな雀の涙の減税では取られすぎた税金が戻ってくるどころではない。国民民主が修正案反対に回ったのは当然だろう。
最低賃金と物価統計、どちらが正しいのか。
自民党・財務省が言うように物価が1割しか上がっていないなら、最低賃金が1.73倍に上昇したのだから、この30年で国民は手取りが増えて生活に余裕ができたはずだ。だが、現実は生活が苦しくなる「失われた30年」だった。米は2倍、キャベツ・白菜はざっと3倍──物価高騰が生活を直撃している現実があるのだ。どう考えても、おかしいのは政府の物価統計のほうではないか──。
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※週刊ポスト2025年3月28日・4月4日号