就活強者と弱者のあいだに横たわる格差
こうしたメンタル悪化の背景には、学生間のさまざまな「格差」があるとAさんは続ける。
「就活強者と弱者のあいだには、格差が横たわっている。たとえば、実家の経済状況によって、アルバイトをしなくてもよい学生と、アルバイトをしながら学費を稼がなくてはいけない学生がいる。アルバイトが不要の学生は、その分、就活に時間を使えますが、そうでない学生はバイトを掛け持ちするなかでインターンや説明会に参加しなければならず疲弊しがちです。またリクルートスーツなど就活用品も自腹で揃えなくてはならず、経済的な負担も大きい。そのため家庭のサポートも就活の動向を左右するのです。
一方で、従来から変わらず、学歴によるフィルタリングや足切りも、学生たちの自己肯定感を下げる要因のひとつとなっています。例えば、比較的低い偏差値帯の大学だと、いくらエントリーシートを出しても、インターンシップにすら呼ばれない状況がある。こうした経験を積み重ねていくなかで、入学当初はハツラツとしていた学生もだんだんと自信をなくし、暗い表情になるケースもあります。
大学教員としては4年間を有意義に使ってほしい、好きな学問や知的好奇心を生かして、卒業研究や卒業論文に臨んでほしいと思うのですが、なかなかそれが叶わない現状があります。就活の話題はなるべくこちらから聞かないようにしたり、教員も気を遣っていますね」(Aさん)
大学側も就職支援体制の強化に伴いコスト増
そもそも大学選びの段階から、卒業生の就職先や内定率を重視する受験生・保護者は多い。そのため大学では受験生と保護者にアピールするため、就職活動の支援体制強化に伴う業務やコストが増加する傾向にあるという。私立大学に勤務している事務職員の男性・Bさん(40代)が明かす。
「現在、大学は学内にキャリアセンターを設け、キャリアアドバイザーを常駐させたりするなど、就活支援に大きなコストかけています。就活に使える知識、自己PRの作法、エントリーシートの書き方などを教える授業を開講し、専門の非常勤講師や教員を雇うこともあります。このほか、就活に関する大学教員の委員会を設置したり、外部から就活セミナー用の講師を派遣してもらってイベントを開くこともあります。
とにかく、就活支援に対する大学の負担は年々増加していると感じます。学生にとっても、ゆっくりと学問を深める時間が減っているのは間違いありません。就職予備校などと揶揄されますが、やはり大学が本来担うべき部分を超えた就活サポート体制には疑問を感じていますね」(Bさん)
後編記事《「先生、卒論はコスパが悪いです」「このゼミはガクチカに使えますか?」大学の就職予備校化で危ぶまれる大学生たちの“学問への意欲低下”に年配教授もため息》では、就活予備校と化した大学における、学生たちの意識変化についてレポートしている。