SNSの口コミを見て商品を選ぶ消費者
2000年代初頭とは比べ物にならないほどネットが普及した現在、マーケティングにとってニュース性はますます重要になっていると高岡氏は言う。
「今の消費者は広告ではなくSNSの口コミを見て商品を選びます。だからこそ、人が人に伝えたいようなニュース性のある商品をクリエイティビティで作る必要があり、同時にネットの声をいかに拾うかが問われます。逆に言えば、本当にみんなが欲しいと思う商品やサービスであれば、あえて広告はしなくていい。それがインターネットの時代だと思います」
そんな時代だからこそ、「テレビCMをやめる」が企業にとっての選択肢となり得る。
「テレビCMはこれから世に出す新ブランドや新商品の認知度を高める効果はありますが、そのブランドや商品が定着して利益を生み出すヒット商品になるかはわかりません。しかも、例えばネスカフェやキットカットのような誰もが知っているブランドはCMの効果が少なく、コストパフォーマンスが非常に悪い。単なるイメージ広告だけ一生懸命やっていても、売上も利益も上がらないんです。
テレビCMは広告メディアのひとつとしてこれからも絶対に生き残ります。ただし、広告をやらないと商品が売れないという考え方は、時代遅れだと思います」
この先は、企業のテレビ広告離れが加速するかもしれない。今回のフジの問題は「テレビの終わりの始まり」ではなく、「テレビCMの終わりの始まり」であるかもしれないのだ。
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【プロフィール】
高岡浩三(たかおか・こうぞう)/1960年大阪府生まれ。1983年に神戸大学卒業後、ネスレ日本に入社。各種ブランドマネージャーを経て、ネスレコンフェクショナリーマーケティング本部長として「キットカット受験応援キャンペーン」を手がける。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長。2010年、ネスレ日本副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」ビジネスモデルを構築。同年、社長兼CEOに就任し、2020年に退任。現在はケイアンドカンパニー社長として、企業のマーケティング、イノベーションをサポートしている。
取材・文/池田道大(フリーライター) 写真/横田紋子