元ネスレ日本社長の高岡浩三氏(現ケイアンドカンパニー代表取締役)
世間の大きな注目を集めたフジテレビ問題は、3月末がめどとされる第三者委員会の調査報告で一つの山場を迎えると見られる。フジテレビでのCM放映見送りを実施したスポンサー企業は、その後、どう対応するのか。視聴者の「テレビ離れ」が顕著な今、そもそもテレビCMにどんな価値があるのか。フリーライターの池田道大氏が、かつて看板商品「キットカット」のテレビCMを中止する決断を下した、元ネスレ日本社長の高岡浩三氏(ケイアンドカンパニー代表取締役)に聞いた。【全5回の第1回】
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中居正広氏の女性問題に端を発したフジテレビ問題。記者会見での不手際など初動を誤ったフジテレビが被ったダメージは大きく、同社によると、CM放映を中止した企業は1月末時点で300社以上に上った。2025年3月期の広告収入は、従来見通しから233億円減少すると予想されている。
注目されるのは今後のCMの行方だ。実業家の堀江貴文氏は自身のYouTube番組で「これまでテレビCMをやらないと売上が下がると思っていた企業がフジの不祥事をきっかけにCMをやめたら、売上が下がらず、コスパが良くなかった(と気づく)」と指摘し、企業のテレビ広告離れが進むと予言した。
テレビCMに数十億円かけても「十分な利益」は生めない
そんな「企業のテレビCM離れ」を20年以上前に実現していたのが、元ネスレ日本社長の高岡浩三氏だ。世界最大の食品・飲料メーカーであるネスレの100%子会社であるネスレ日本のトップを2010年から10年間務めた高岡氏だが、社長就任前の2002年頃、人気商品「キットカット」のCM中止をマーケティング担当者として決断、後述するように新たなプロモーション戦略を打ち立てて大成功を収めた。
なぜ、キットカットのCMをやめようと思ったのか。高岡氏は「まず前提として、外資系企業の“利益に対する執着”を理解する必要があります」と語る。
「日本の会社は今でこそ、投じた資金がどれだけ利益を生み出したかを示すROIC(投下資本利益率)を重視するようになりましたが、外資系では僕がネスレ日本に入社した40年前から当たり前のように、投資に対するリターンを強く求められました。売上ではなく利益です。僕はそうした厳しい環境で鍛えられました」(高岡氏・以下同)
投じたお金がどれだけの利益を生み出すかをシビアに問われる環境で、悩みの種となったのがテレビCMだった。1980年代当時のネスレ日本は「ネスカフェゴールドブレンド」の“違いがわかる男”などのCMに年間400億円ほど使っていたが、それは大きな工場を丸ごと一つ作れる金額だったという。高岡氏がマーケティングを担当することになったキットカットも宮沢りえや一色紗英ら華やかな女性タレントをCMに起用し、毎年20億円以上の広告費を使っていた。
「それだけの巨額をつぎ込みながら、キットカットの利益率はわずか2〜3%ほどでした。これではどうしようもない。利益を重んじる本社から『何とかしろ』との指令があり、“20億円の広告費を一気にゼロにしたら利益が上がるだろうか……”と漠然と考えていました」